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君影草  作者: 惠美子
第十二章 緑の大地
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 カードをしていて相手の気を逸らせたり、逸らされたりの話題は事欠かない。

「北ドイツ連邦の憲法審議の為の議員選出の選挙があったろう?」

「まあ、プロイセンの出した案を皆で熟読して、終わるんじゃないか?」

「さてね、宰相閣下は憲法草案を上げたら、次はフランスの皇帝やオランダ国王とルクセンブルクをどうするか、あれこれと連絡を取り合うんだろうよ」

「ふふん、南ドイツの国々のご機嫌取りだってやらなきゃいけないだろうし、忙しいね。宰相にはなるもんじゃない」

「南ドイツの国々といえば、バイエルン王国のルードヴィヒ2世が婚約した話を聞いたか?」

 シューマッハ中尉から聞いた話を思い出し、俺はそちらが気になった。

「ほう、バイエルン国王は女嫌いらしいと聞いていたが、結婚するのか」

「何言っているんだか、王様ってのは好みの問題よりも、体面や跡継ぎが必要だから、そこは義務ってやつだろう」

「言われてみれば、お相手はオーストリア皇妃の妹だが、バイエルン国内の公爵家の公女だ。国内の貴族と結婚なんて、疑えば疑えるな」

「外国の王族相手に恥をかかせられないからな」

 ミューラーがチップを増やした。

「オーストリアの皇帝が一目惚れした公女の妹だから美人かな?」

「女嫌いなら、女ってだけで(つら)の出来不出来は関係ないんじゃないだろうか」

「女嫌いと、女と寝るのが嫌とは一緒かね?」

「俺には判らん」

「男と寝たことないし、女と寝る方が断然いいね」

「俺だってそうだよ」

 どうも話が下世話になってくる。

「ブルックだって女を選んだんだ。女が嫌いな奴の頭の中は、悪いが想像できない」

「まあ、男同士でと噂で言われる奴らはいるが、俺に色目を使わない限り、生死を共にする仲間なんだから、爪弾きにしやしないつもりだがね」

 さて、こちらのカードは揃っていない。ミューラーは揃っているのかブラフでやっているのか。何枚カードを変えるか、顔色に出さずに関わりない話をしながら考えるのは毎度のことだ。

 ヨハンセンはわざとらしく顔をしかめて見せている。

「芸術がお好きで、特にワーグナーが大好きで、借金を全部払ってやる王様だから、俺たちとは頭の中身が違うのさ」

「こちらの王様は(ウィ)(ーン)かお妃様のご実家のウェルフェン家のどちらかで寄食してお暮しになるのだろうなぁ」

「お気の毒だが、もう忠誠の宣誓が無効になった。お目見え以下には食う事と住む場所が大事さ」

「加えて美味い酒と、女がいれば言うこと無しさ」

「二枚札を変える」

 親のヨハンセンは俺の出した札を取り、カードの山から二枚渡してきた。憐れむような視線を投げたのは気のせいか。表情を変えないようにゆっくりと手札を手元に揃えていく。やっと組が一つ、だが、数字がなぁ。チップを探る振りだけをする。

 誰もチップを増やさず、手札を変えずに一巡したので、手札を見せ合った。

 俺の負けだ。ワンペアの俺、ミューラーがダイヤ、ヨハンセンがスペードでフラッシュだ。付いていない。

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