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君影草  作者: 惠美子
第十二章 緑の大地
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 秋が深まり、次は弾丸の速さで凍てつく冬がやって来る。

 十月半ばに官吏に対して亡命中の国王陛下から忠誠の宣誓解除の勅が出ていたが、十二月にやっと士官に対しての宣誓解除と、離職の自由を認める勅が出た。王国が併合されないようにと交渉し、抵抗なさっていたらしいが、一切の譲歩がないとゲオルク2世が諦めるまでぎりぎりの時期まで掛かったのだ。一月一日から併合された諸国でプロイセン王国の憲法を発効すると、一方的にせよプロイセンが併合法で取り決めている。プロイセン王国憲法の施行そのものは十月一日からとされているから移行のための準備をせよと時間を与えられた訳だ。

 おいたわしいが、王国再建は夢のままになる。

 これまでもカレンブルク軍内部での異動や退職の希望調査があったが、勅令が出された為、大掛かりな人事異動が本格化していくだろう。そしてプロイセンからの上官を迎える準備も必要になってくる。

 カレンブルク政府は併合されてもこちらの独自色を残そうと、行政の関連法や慣習法をプロイセンに提示して交渉する手筈を整えるのに大童(おおわらわ)らしい。軍制についてはプロイセン式を取り入れた方が得策と考えられているようで、交渉の内では優先順位が後ろに回っている。行政区の振り分けはともかく、軍管区はプロイセンの改革の通りになるのだろう。

 森深く、ドイツの緑の心臓と呼ばれるこの大地。

 プロイセンの州となり、軍制では第何区と呼ばれ、軍団か師団、場所によっては連隊で守備を固めるようになるのだ。

 北ドイツ連邦の憲法の制定の会議の為の選挙が予定されているが、恐らくはビスマルクの設計図どおりに進んでいくのだろう。

 ビスマルクの神経痛が(おさ)まらず、ナポレオン3世が泌尿器系の病気の治療に専念していてくれれば、1867年のヨーロッパは平和に過ぎるはずだった。外交は戦争回避の為にあるのだと外交官は言うが、時に戦争の引き金になる危うさを含んでいる。

 こちらがプロイセンからの軍制改革を受け、それに対応している間に、上つ方は騒ぎの種を蒔こうとしている。

 寒さの底をしのぎ、春の声が聞こえてくるだろうかとの時期になった。

 リース大佐の部屋で地図を広げて眺めながら、プロイセンの参謀本部が提示してきた新しい軍管区を大佐と共に確認していた。

 カレンブルクは第十一軍管区に属することになるらしい。大佐はその軍管区に置かれる師団の参謀役へ、俺はその中に幾つかある連隊の一つへの異動の内示を受けている。自分たちが配属されるであろう部隊の管轄や周囲の軍管区の区分けを地図上で指しながら一つ一つ頭に入れていた。

 今日はプロイセン軍の兵站担当の将校が視察に来る予定であるが、実戦部隊の自分には関わりのない客であるし、こうやってリース大佐が部屋に呼んでくれているので、リース大佐は出迎えの担当ではないのだろうとのんびりした気分でいた。だが、大佐に催促の者が来た。

「大佐、視察団の接待や説明のお役目があるのでしたら、お邪魔しませんでしたが」

 迎えに来た兵の前で、俺はさぞかし驚いた顔をしていただろう。

「構わんさ。ちょっと行ってくるが、アレティン中尉は時間があるのならここで待っていてくれないか。まだ貴官と話をしたいから、また呼び出すのも悪い。

 いいかな?」

 否やはない。

「はい、了解しました。ここでお待ちします」

 一時間半ほど経っただろうか。我ながら飽きずに大佐の部屋で地図やら路線図を眺めて過した。疲れて、座って呆けていた。

 扉が開けられ、俺は起立した。リース大佐が戻ってきただけではない。プロイセンの将校がお付きを連れて、一緒に入ってきた。将官クラスか。俺は黙って敬礼した。

「アレティン中尉、こちらは兵站総監ポドビエルスキ中将でいらっしゃる」

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