表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君影草  作者: 惠美子
第十二章 緑の大地
84/486

「一度この軍を辞して、ザクセン王国の軍に加入を申請するのでしょう?」

「カレンブルクで口利きはせんだろうから、貴官の言う通り、ヴァイゲル少佐自身で行うことになるだろうな」

 ザクセン軍で、入隊希望の将校を全て受け入れてくれるといいのだが……。

「不安がるな。少佐が考えた末だ」

「はい」

 積もる話は後日と約して、リース大佐の部屋を出た。残るは懐かしき仲間の所だ。士官の溜まり場になっている談話室へ向かう。この時間ならだいたいの面子はいるはずだ。談話室に近付くとざわざわと声が聞こえてくる。

「中尉、自分はここで失礼します」

「判った。ではまた後でにしよう。招待したら遠慮しないで来てくれ」

「はい」

 ホップ伍長は敬礼して下がっていった。

「ご機嫌よう」

 俺は大きな声で談話室に入っていった。

「オスカー・フォン・アレティン中尉、本日付で帰参した」

 入口で敬礼すると、皆、顔を向けた。おお、と歓声が上がった。

「待ちかねたぞ」

「生きていたか、左足は付いているか」

「貴様、来るのが遅い! もっと早く戻れなかったか」

 歓迎と憎まれ口とが飛び交い、抱きつかんばかりの顔を寄せてくる者もいた。

「ブルックもヨハンセンもミューラーも、貴様ら息災で何よりだ」

「息災だとも、あれしきの戦闘だ」

 しみったれた気分を空元気でなんとか明るくしようとしている。俺も皆もそれは感じている。遣り切れない思いは今更言っても詮方ない。敗北して国は無くなり、忠誠の義務を解く指令がいつ届くかの状態だ。

 忠誠を尽くす相手が誰であれ、我々は軍人としての生き方しかできない者たちだ。命そのものを賭金(ベット)にして、砲弾と銃剣の野を駆け回る。

「今晩は『黒い猫』でアレティンの為に祝杯だ」

「一杯ずつなら奢る」

「ケチ臭いことを言わず、全額」

「貴様の底なし振りでは払いきれん」

 肩を叩き合い、思い切り声を出して笑った。南部()軍団()ではこうでなくては、皆とはこう過していかなくては、日々の楽しみがない。

 ――実戦以外でも貴官は働けると感じた。

 シューマッハ中尉の言葉が頭をよぎった。

 自分にどんな生き方が相応しいか。俺だけが信じ、決めるのではない。軍への残留自体は決めている。どんな辞令が出ようと拝命する。それが役目だ。

「アレティンには(しら)せることが山ほどある」

 ためらいがちな言葉がブルックから掛けられた。

「そうだな、しばらくここにいなかったのだから、色々あるんだろう? 話を聞かせてくれよ」

「ああ……」

 ブルックや皆の様子が変わった。

「俺は軍を辞める」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ