三
「一度この軍を辞して、ザクセン王国の軍に加入を申請するのでしょう?」
「カレンブルクで口利きはせんだろうから、貴官の言う通り、ヴァイゲル少佐自身で行うことになるだろうな」
ザクセン軍で、入隊希望の将校を全て受け入れてくれるといいのだが……。
「不安がるな。少佐が考えた末だ」
「はい」
積もる話は後日と約して、リース大佐の部屋を出た。残るは懐かしき仲間の所だ。士官の溜まり場になっている談話室へ向かう。この時間ならだいたいの面子はいるはずだ。談話室に近付くとざわざわと声が聞こえてくる。
「中尉、自分はここで失礼します」
「判った。ではまた後でにしよう。招待したら遠慮しないで来てくれ」
「はい」
ホップ伍長は敬礼して下がっていった。
「ご機嫌よう」
俺は大きな声で談話室に入っていった。
「オスカー・フォン・アレティン中尉、本日付で帰参した」
入口で敬礼すると、皆、顔を向けた。おお、と歓声が上がった。
「待ちかねたぞ」
「生きていたか、左足は付いているか」
「貴様、来るのが遅い! もっと早く戻れなかったか」
歓迎と憎まれ口とが飛び交い、抱きつかんばかりの顔を寄せてくる者もいた。
「ブルックもヨハンセンもミューラーも、貴様ら息災で何よりだ」
「息災だとも、あれしきの戦闘だ」
しみったれた気分を空元気でなんとか明るくしようとしている。俺も皆もそれは感じている。遣り切れない思いは今更言っても詮方ない。敗北して国は無くなり、忠誠の義務を解く指令がいつ届くかの状態だ。
忠誠を尽くす相手が誰であれ、我々は軍人としての生き方しかできない者たちだ。命そのものを賭金にして、砲弾と銃剣の野を駆け回る。
「今晩は『黒い猫』でアレティンの為に祝杯だ」
「一杯ずつなら奢る」
「ケチ臭いことを言わず、全額」
「貴様の底なし振りでは払いきれん」
肩を叩き合い、思い切り声を出して笑った。南部軍団ではこうでなくては、皆とはこう過していかなくては、日々の楽しみがない。
――実戦以外でも貴官は働けると感じた。
シューマッハ中尉の言葉が頭をよぎった。
自分にどんな生き方が相応しいか。俺だけが信じ、決めるのではない。軍への残留自体は決めている。どんな辞令が出ようと拝命する。それが役目だ。
「アレティンには報せることが山ほどある」
ためらいがちな言葉がブルックから掛けられた。
「そうだな、しばらくここにいなかったのだから、色々あるんだろう? 話を聞かせてくれよ」
「ああ……」
ブルックや皆の様子が変わった。
「俺は軍を辞める」




