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君影草  作者: 惠美子
第十一章 プロイセンの青
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 この男も裏を読もうとしているか。単にビスマルクが曲者だからか。

「プロイセンの領土も人口もまるきり変わる。ビスマルクは都会生活に馴染んでいるくせに、突然 田舎(ユン)領主(カー)らしく田園生活に戻りたくなる。そういう時はお疲れなんだろうし、選挙がある。周囲に惑わされずに整理したい事柄ばかりだろう」

 ビスマルクの出した法案は反対派が全くいないとは言えないが、通過している。心配する必要はなかろう。

「確かに事後承諾法が通ったのだから、予算編成やプロイセンの憲法問題はひとまず片が付いた。

 しかし、これまでのドイツ連邦議会ではなく、北ドイツ連邦で議会を開いてこれから物事を決めていくようになる。プロイセンが主導する心積もりでいるのだろうが、選挙は票を数えてみないと安心できないものだ。

 その上で北ドイツ連邦の憲法を成立させる。併合された諸邦に大きな不満を出さないように気を配る必要もある」

「貴官は武官よりも文官に向いているのではないか」

 さて、とシューマッハは肩をすくめた。

「子どもの頃は勉強が嫌いでね。士官学校の方に行きたかった。法学生など柄じゃないし、コネがないので、こちらの方が気楽さ」

「口利きを頼まれても嫌だから?」

「そうさ、レヴァンドフスキのような一件を揉み消ししてくれと頼まれるのはお断りだ」

 世慣れているようで、時々顔を出すこの男の正義感に好ましさを感じ取っているのだと、今更ながら思う。融通が利かないかも知れないが、裏切りはしない、そんな不器用で、正直、コツコツと成果を積み上げていく地道な人間。

「貴官はまず編成し直したプロイセン軍、カレンブルク地域の軍団か連隊に配属となるだろう。ただ、そこで一生を過すようになるのか、別の拝命が下るかは判らない。もし(ベル)(リン)に来る機会があったら知らせてくれ、ぜひ我が家に寄って欲しい」

「気に入っていただけて光栄だ」

「ああ、貴官も俺を気に入っただろう。世の中を捻って見て論じる奴は話を聞いていると面白い」

 いささか正直過ぎるが、嫌味にならない。プロイセン軍での知己としよう。


 十月に入って辞令が下された。南部軍団中尉として再赴任である。プロイセン軍として立て直しをするための準備がある。

 カレンブルクの軍服ではなく、プロイセンの青の軍服をまとい、これからの戦いに備えていく。

 さらば、(プレヤデン)。これまでの感傷よ、消えよ。

 俺は平穏な生活を求めていない。このままあるじを変えても、軍人のまま過していく。

 さらば、郷愁。さらば、カレンブルクの国王。これからはただのドイツ人、一人のゲルマニアの民となる。

参考にした論文

『プロイセンのハノーファー王国併合とドイツ統一』 大西健夫

『北ドイツ連邦の連邦主義構造』 大西健夫

『プロイセンのハノーファー併合と行政的統合(1866~1868)』 守屋治善

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