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君影草  作者: 惠美子
第十章 昴
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 日を追って、プロイセン軍の勝利のニュースばかりが入ってくる。

 プロイセン軍が第七軍団を破った。オーストリア皇帝が国民に対してプロイセンとの徹底抗戦の勅諭を出した。そういった内容だ。新聞では軍事の専門ではない者が伝えてくるのと、検閲を経ている所為なのか、隔靴掻痒と言うべきか、もどかしい。

 まだ左足が完治しておらず、軍から療養のために待機と命じられている上に、敗戦国側であるから、勝手な行動は慎まなければならず、気持ちが落ち着かない。

 オーストリア軍がケーニヒグレーツからの敗走を続け、軍を立て直しながらなんとかオルミュッツまで退却できたらしい。ここで持ちこたえなければ、再びプロイセン軍に南下を許すことになる。ドナウ河まで来られたら(ウィ)(ーン)を望む場所を獲られる。

 しかし、退却をしながらの小競り合いの中でオーストリア軍は分が悪い。負け続け、プロイセン軍を自領に招きよせているようなものだ。

 西部の戦線でも第七軍団が敗れ、プロイセン軍は第八軍団のいるフランクフルトに向かっている。

 俺は今日何度か目の溜息を吐いた。

 ()けるのだ。

 ユートラント半島や西部の諸邦の防衛を投げてまで本国近くまで逃げ帰ったオーストリア軍が、プロイセンに踏みにじられ、ざまあみろと思う反面、そこまでしたのに勝てないのかと、不甲斐無く感じる。ガブレンツ中将が善戦したといっても大戦(おおいくさ)の中の一局面であり、大勢は墺軍の敗北である。墺軍の司令官ベネデック元帥は休戦交渉を撥ねつけられ、しかし、水面下の駆け引きがあるらしく、白旗を早々に出せずにさぞかし困っているだろう。

 勝ち進んでいるプロイセンでは、シュルツが言うように、上層部の――、ヴィルヘルム1世と宰相と軍部――、思惑がずれてくる可能性がある。我々諸邦とオーストリア、そしてライン河の西側が欲しいフランス。

 フランスが干渉してくるのは目に見えている。あの山師にしか見えないナポレオン3世。これまでプロイセンの背後で大人しくしていてやったのだからと、口出ししようとしているに違いない。


 ――敗けたのだから、勝った方の言い分は? 胡散臭い取引をしないでくれ!


 こちらは声を大にして言いたいくらいだ。だが勝者は貪欲だ。

 やがて、フランクフルト陥落の報が入った。時間の問題だったとはいえ、知れば落ち込む。

 第八軍団を率いるヘッセン公子は作戦を考えていたらしいが、その通りに軍が動かず、プロイセン軍を勝利させ、転進。ウェルツブルグ要塞都市に入り、バイエルン軍と合流した。

 守る者がいなくなったフランクフルトは進軍してきたプロイセン軍に街の鍵を渡した。西部のプロイセン軍は占領したフランクフルトで休養し、食糧などの消耗品とともに多額の賠償金を要求した。現地調達というものだ。

 休養の後、プロイセン軍は進軍を開始し、ウェルツブルグ要塞都市の攻撃に手を付けた。マイン河畔をめぐるこの戦いの最中に、やっとプロイセンとオーストリアは休戦の合意をした。これから講和会議が始まる。

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