五
「俺は人類最古の職業の拝命を受けたことがない。ただポーランド人の革命家がカレンブルクの首都で活動していたと聞いたから、繫がりがあるのかと思った」
シューマッハ中尉は真面目に答えた。
「何代か世代を経ても故郷を忘れられない。でも現在の地位や生活も大事となると、簡単には行動できなくなると思うがな。特にレヴァンドフスキ家はプロイセンで投資をして稼いでいる家だから、長男以外の息子を軍人にしてプロイセンに馴染もうとしていた方だと思うね」
「本当に革命を起こしたくて行動している者と、何もできない癖にそう言っていれば恰好がつくと思っている者といるからな」
「皮肉を言うのが好きなのかな?」
「いや、そんなつもりじゃない」
シューマッハ中尉は肩をすくめ、苦笑した。
「貴官があれこれ言いたくなるは判らんでもない、少しは退屈しのぎなったか?」
と、俺の足を見た。この様の上に、故国は降伏したのだから、と慮られたか。しかし、この男といると惨めな気分にならなかった。陽性な性質なのかも知れない。
「ああ、貴官のお陰でプロイセンの勉強になったよ」
「貴官の言は面白い。俺もお喋り好きでもないのに喋り過ぎた。また会うことがあれば、仲良くやろう」
すっと右手を差し出した。俺はその手を両手で握り返した。自分でも不思議なほど自然な仕草だった。
「シューマッハ中尉だったな、名前を覚えておく。有難う」
「ああ、またな、アレティン中尉」
書類を持った手を振り、シューマッハ中尉は去っていった。こういう男と敵として対峙したくない。心底思った。
カレンブルクに戻れるのなら、どれくらい自分の足が利くか試そうと思い、立ち上がってみた。
まだ痛い。
杖を突きながらでなくては歩けないようだ。だが、それでは行軍についていけない。あり合わせ作った添え木で左足を固定したままでは鐙に足を乗せられないし、力を入れられない。軍人が馬に体を預けて乗っているのは無様だ。鉄道を使わない道程では、ほかの負傷兵たちと荷馬車に乗るしかないか。
「杖になりそうな棒切れはあるのか?」
衛生兵に尋ねた。
「ただの棒切れなら有りますが、歩行の為に体を支える形をしていません。中尉が乗るための馬が足りなそうな時は荷馬車や鉄道を利用してください」
「そうするしかないか」
「ちゃんと治したいなら、言うことを聞いてくださいよ。出来るだけ介助はしますから」
「ああ、従うよ。よろしく頼む」
無理をして、足の筋を違えたままになったら軍人を続けられなくなる。大人しく養生していよう。
もう一度簡易のベッドに腰を下ろして退屈していると、今度はリース大佐がやってきた。
「調子はどうだ?」
「まだまだのようです」
「故国までの移動を開始するまでまだ時間がある。それに移動するにしても急ぐ必要がないのだから、気を揉むことはない」
「有難うございます」
「アレティン中尉、なぜアイゼナッハに入るのに二日間行軍を止めたか教えてやろう」
シューマッハ中尉と違って楽しい話ではなさそうだ。