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君影草  作者: 惠美子
第九章 嵐の後
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 俺が救護用の幕舎で休んでいた日に、アレントシルト中将が、弾薬が底を尽き、弾薬や食料の補充の途はなく、プロイセン軍に囲まれているのでは徹底防戦も虚しいものとなると説き、ハノーファー国王がこれを許し、和議を申し出た。最早、連邦軍の第七、第八軍団が北上してきてくれると希望できなかった。包囲され孤立の中で国王を殲滅戦に巻き込み、国王が虜囚、或いは戦死、となれば臣下として負い切れぬ大きな不名誉となろう。

 また、ハノーファー国王はイングランド王室の親族としてイングランドの公爵位を持っている。プロイセンはイングランドからの干渉を望んでいるのだろうか。いや、それはあるまい。プロイセンの野心は大陸内の領土や権益の拡大だろうから、ここでイングランドの介入を恃む考えはないはずだ。ハノーファーからの降伏申出を受け入れるだろう。

 我が国、我が主君はどう処するであろうか。

 恐らくは戦わない道をお選びになるだろう。ヘッセン(カッセル)選帝侯国が占領された上に君主が捕らえられている。ザクセン王国もエルベ河沿いに南下してきた別のプロイセンの軍団により首都ドレスデンを占領されている。恐らく、残ったザクセン軍とオーストリア軍はそちらで手一杯。ハノーファーが降伏すれば、我が国が単独で戦っても敗北は目に見えている。宣戦布告を受け、地続きでは逃げも隠れもできない。

 我が国がいつ負けたと認めるかだけになる。

 嗤いたくなる。

 勝ちに不思議や運命の女神の贔屓はある。しかし、負けにはそれだけの理由がある。

 負けの理由……。幾らでも数え上げられる。今となっては詮無いことだ。それを今後教訓として生かせる前途があるかどうか。

 様々な未来予想図が思い浮かんでは消えを繰り返した。疲れるだけだ。もうよそう。降伏しても、国の名と主君の座が残り、俺が騎士爵だけの商人にならず軍人のままでいられるよう願い、足を治すことだけを考える。下手な考え休むに似たり、そう、休むのが一番だ。

 シュミット、死んだ方が楽だったろうか。

 いつ死んでも構わないと覚悟しているくせに、こんな状況でなお先のことを考える俺を愚かと思うか。

 誰も人生の次の死後は知らない。最後の審判を待ち、死の眠りの中にいるのか、直ちに煉獄に落とされるのか。彼岸から帰ってきて伝えてくれた人物はいない。預言者や聖職者が説く世界。証明はできない。だが、人を傷付け、死なせているのだから、死後安らかとは思えない。俺の地獄行きは決まっている。

 生きていても、死んでも、心が渇いているのなら、どこでも同じだろう。

 翌朝の六月二十九日、プロイセンはハノーファーからの降伏を受け入れた。ハノーファーに続き、カレンブルク王国やブランシュヴァイク公国、オルデンブルク大公国など周辺諸邦がプロイセンに降伏した。

活動報告でも揚げておりますが、更新の間が空くようになります。再びの史料とニラメッコや、次の展開の思料などございます。何卒お見捨てなきようお願い申し上げます。

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