五
痛みを堪えて起き上がり、うつぶせになっているシュミットを抱え起こした。
「シュミット、おい、シュミット! 何故こんなことに」
シュミットは呼吸を乱しながら、皮肉な笑いを浮かべた。
「貴様が死ぬのを見ていれば良かったのに、なんてことだ」
「ああ、本当になんてことだ。非情になるべき場で」
シュミットは会話を続けようとする。
「もういい、我々はこの様で戦線離脱だ。しっかりしろ」
しかし、シュミットは首を振った。
「あのプロイセン野郎、体重を掛けて刺してきたから深い」
「大丈夫だ」
「KDで……」
幼年学校(KD)で?
「KDで、下の学年でよく面倒を見てやった奴がいる。アルベルト・シュレーダー。素直で、いい奴だ」
シュレーダー、ああ、シュミットの幼年学校時代の後輩だったのか。幼年学校と士官学校の出なんて、実際軍に入って行動していたら、別の意味の同胞意識が出てきてこだわりが薄れるのに、こいつはいつまでも後輩を思っていたのだ。
「士官学校で一緒の班の奴らが幼年学校(KD)の同期がいないから、心配していた。だから……」
「シュレーダーには世話になったし、皆で協力していたよ。本当にあいつの病気は残念だった」
「ああ、貴様に直接、きちんと話をしていれば良かったんだな。
それでも貴様とはそりが合うとは思ってない」
「そうだな」
「あいつの姉さんに似た同僚の顔を見ながら死ぬのか、皮肉なものだ」
「おい、シュミット、シュミット」
傷に触らないように揺さぶったが、シュミットは返事をしなかった。微かに息がある。シュミットを抱き上げて、立とうとしたが足が痛んでうまくいかない。シュミットの中隊の兵が駆け寄りシュミットを抱えた。
なんとか立ってみたが、まともに歩けるかどうか。
「この近くの中隊、もしくは士官はいるか?」
「小官はノイマン少尉です。近くにアイゼン中尉の中隊がいます」
士官が駆け寄ってきた。
「シュミット中尉と、自分アレティン中尉は負傷により動けない。代わりに貴官が二つの中隊を率い、アイゼン中尉と合流して行動をしろ。
各中隊の中で負傷した者、それとシュトレ小隊は我々と陣まで後退する。
いいか、シュミットとアレティンの中隊はノイマン少尉の指揮下に入れ」
「了解しました」
背中を刺され、出血が酷いが、傷口を押さえるしか方法がない。なんとかシュミットを助けたい。だが、俺は騎手と衝突して、左足を捻ったようだ。骨までやられていないと思うが、痛みがあり、立つのもやっとで、馬に乗ったところで、足がこれでは疾駆させられない。
小隊の兵の肩を借りながらの退却となった。シュミット、マイヤー大佐の所まで持ってくれ。貴様とはまだ話すことがある。




