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君影草  作者: 惠美子
第八章 ランゲンザルツァ
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 痛みを堪えて起き上がり、うつぶせになっているシュミットを抱え起こした。

「シュミット、おい、シュミット! 何故こんなことに」

 シュミットは呼吸を乱しながら、皮肉な笑いを浮かべた。

「貴様が死ぬのを見ていれば良かったのに、なんてことだ」

「ああ、本当になんてことだ。非情になるべき場で」

 シュミットは会話を続けようとする。

「もういい、我々はこの(ざま)で戦線離脱だ。しっかりしろ」

 しかし、シュミットは首を振った。

「あのプロイセン野郎、体重を掛けて刺してきたから深い」

「大丈夫だ」

「KDで……」

 幼年学校(KD)で?

「KDで、下の学年でよく面倒を見てやった奴がいる。アルベルト・シュレーダー。素直で、いい奴だ」

 シュレーダー、ああ、シュミットの幼年学校時代の後輩だったのか。幼年学校と士官学校の出なんて、実際軍に入って行動していたら、別の意味の同胞意識が出てきてこだわりが薄れるのに、こいつはいつまでも後輩を思っていたのだ。

「士官学校で一緒の班の奴らが幼年学校(KD)の同期がいないから、心配していた。だから……」

「シュレーダーには世話になったし、皆で協力していたよ。本当にあいつの病気は残念だった」

「ああ、貴様に直接、きちんと話をしていれば良かったんだな。

 それでも貴様とはそりが合うとは思ってない」

「そうだな」

「あいつの姉さんに似た同僚の顔を見ながら死ぬのか、皮肉なものだ」

「おい、シュミット、シュミット」

 傷に触らないように揺さぶったが、シュミットは返事をしなかった。微かに息がある。シュミットを抱き上げて、立とうとしたが足が痛んでうまくいかない。シュミットの中隊の兵が駆け寄りシュミットを抱えた。

 なんとか立ってみたが、まともに歩けるかどうか。

「この近くの中隊、もしくは士官はいるか?」

「小官はノイマン少尉です。近くにアイゼン中尉の中隊がいます」

 士官が駆け寄ってきた。

「シュミット中尉と、自分アレティン中尉は負傷により動けない。代わりに貴官が二つの中隊を率い、アイゼン中尉と合流して行動をしろ。

 各中隊の中で負傷した者、それとシュトレ小隊は我々と陣まで後退する。

 いいか、シュミットとアレティンの中隊はノイマン少尉の指揮下に入れ」

「了解しました」

 背中を刺され、出血が酷いが、傷口を押さえるしか方法がない。なんとかシュミットを助けたい。だが、俺は騎手と衝突して、左足を捻ったようだ。骨までやられていないと思うが、痛みがあり、立つのもやっとで、馬に乗ったところで、足がこれでは疾駆させられない。

 小隊の兵の肩を借りながらの退却となった。シュミット、マイヤー大佐の所まで持ってくれ。貴様とはまだ話すことがある。

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