四
「堤防を昇る味方を援護するために、射撃の準備のできた者から前後二列に分かれて並べ」
堤防を昇る味方を上から狙い撃ちをされないように、上のプロイセン兵に向かって、前列の発砲。続いて二射目。
プロイセン兵で撃たれる者、撃たれずとも後ろに下がる者。
その間に、ハノーファー軍とカレンブルク軍は堤防を昇った。
「次も撃てるか?」
俺の問に、下士官が小隊の様子をまとめて報告した。
「二巡くらいしかできないようです」
「判った。もう一巡したら、我々も前進。堤防を昇る」
「了解」
二巡目の発砲を終え、我が中隊は堤防を目指した。後方の隊も援護の射撃をしてくれる体勢を取っているのを確認して、堤防を昇った。昇ってしまえば、近距離、銃の性能よりも、身体の機動力で勝負だ。
銃剣だけでなく、銃身を使って相手を叩き、前進する。既に逃げていくプロイセン兵、武器を手放して両手を揚げている兵らもいる。両手を揚げている者は捕虜だ。攻撃はしない。砲台を守ろうとしてそのまま逃げなかった砲兵や、初めに前進していたハノーファー軍を撃っていた歩兵たち。
「諸君らは我々の捕虜だ。抵抗しなければ危害を加えない。大人しく従うことだ」
ゲルマン民族同士の戦いで、無駄に血を流すなとも軍令がある。憎むべきは作戦に従う兵士たちではなく、プロイセンの宰相や軍部なのだから。それはプロイセン側でもある程度認識されているのだろう。捕虜たちは従順だった。
捕虜を一つの小隊に任せて、なおも前進し、河岸よりプロイセンが陣を敷く丘陵地に向かった。
味方の善戦により、大分道は開けていた。しかし、まだ相手を退却・降伏に追い込んでいない。油断はならない。
先に進んでいた隊から声が掛かる。
「まだ後装銃を持った奴らが潜んでいるかも知れない。逃げそびれた馬にも気を付けろ!」
「了解!」
また銃声が飛び交い、身を伏せ、あたりを警戒する。銃声の方角を狙い、引き金を引く。中隊の者も続いて銃を撃った。
聞き覚えのある声がした。
「生きているか!」
「死んでたまるか」
シュミットが少し離れた場所にいた。あいつの中隊は先に進んでいた。友軍に励まされた気持ちになり、少しばかり気が落ち着いた。
また前進。身を伏せ、立ち上がり、プロイセン兵を組み伏せていく。
「気を付けろ! 馬が止まらん」
警戒の声はどちらの軍のものだったのか。
馬が走ってきた。既に騎手は撃たれて絶命しているらしく、馬に引きずられ、地面に叩きつけられるままにされている。しかし、馬は興奮したまま、足を止めない。銃が間に合うか。
狙いを付け、撃った。馬に命中したが、急所には至らなかったようだ。よろめきながらも止まらない。
「アレティン中尉!」
大慌てで、馬を避ける。しかし、引きずられている騎手が振り回されるようにこちらに飛んできた。
避けきれず、左足を強打した。
「つっ!」
とっさに動けない。
「中尉!」
「アレティン!」
プロイセン兵の一人が俺を狙って銃剣で走り寄ってきた。
銃を横にして構えるが、受けきれるか。
瞬時、体に重量が一気に掛かり、何が起きたか判らなかった。
「中尉!」
部下の一人が、プロイセン兵を引き離し、押さえ込んだ。
俺の代わりにシュミットが銃剣で背中を刺され、倒れ込んでいた。