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君影草  作者: 惠美子
第八章 ランゲンザルツァ
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 右岸からハノーファー軍が後退し、それぞれの軍が列を整え直す。右岸を占領することとなったプロイセン軍は右岸の丘陵地に陣を組み始めた。

 左岸のハノーファー軍と我が軍も一旦後退したので、軍列を敷き直すこととなった。アレントシルト中将は左岸本陣の丘陵地に大砲を上げて、順次砲撃の準備を進めた。プロイセンとの河岸での前哨戦の経過から、防戦に徹すると決めたらしい。

 太陽は中天に昇っていた。

 後列に下がった我が軍は、まず隊員の人数把握と安否の確認を行った。さいわいにして、戦死者と落伍者はなかったが、怪我人がでていた。掠り傷の者はともかく、これから戦闘に出るのが無理と判断される者は、更に後方に運び、応急の治療をしてもらうようにする。ハノーファー軍の衛生輜重兵が来ていないので、マイヤー軍医大佐やその部下たちの衛生兵や兵站兵が担当に当たっているが、中隊程度の人数で多忙になっている。

 肩や足を撃たれた者、衝撃で体を打って、体か骨を傷めた者。どこまでしっかり手当てができるだろう。

「消毒薬が足りない!」

「切開して銃弾を取り出すんだ。動かないように押さえていろ!」

「骨が砕けているなら、切断だ」

 怪我をした曹長を運んでいくと、マイヤー大佐の怒号と、衛生兵の強い声とうろたえるような声、入り混じっている。曹長が別の意味で痛そうな顔をした。

「曹長は骨折じゃない。止血しての安静だろうから」

「そのように診断されるといいですな」

 衛生兵に曹長を怪我の状況を説明し、任せて、その場を後にした。

「下手糞が傷をいじくるな! 治りが悪くなるだけでなく、壊死するぞ!」

 戦場で聞くには充分怖すぎる言葉が飛んでいる。

 人員の確認後は、交代で昼食と休憩。壜詰めの中身やブローチェンを飲みこむように腹に入れ、水を飲む。飯を食えるだけましだ。

 ハノーファー軍の砲兵の為に銃弾や火薬の補充の手伝いか、次なる攻撃を待つのか。

 河岸の高台からの砲撃だ。河岸に降りてきたプロイセン兵はほぼ狙い撃ちになる。渡河されてはならないので、左岸側は必死にならざるを得ない。対岸のプロイセン軍の砲台にも目標を定めて撃つ大砲もある。

 対手のプロイセン軍も右岸に砲台を整え、左岸に打ち込み方を始めた。だが、一手早く準備を整え、撃ち方を始めていた左岸側が有利であった。

 ハノーファー軍は補給が見込める状態ではないが、ここはプロイセン軍を自儘にさせてやる親切心はない。

 砲撃が続く中、左翼で動きがあったと中央、本陣に知らせが入った。

 ハノーファー軍の有利とみて、左翼のボートメル旅団が独断で河を渡り始めたという。

 アレントシルト中将は即座に決断し、伝令が走った。

「右翼隊、敵の左翼を突くべく前進せよ。

 中央隊、両翼隊の進展を見ながら援護、突撃のために臨戦態勢で待機」

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