一
銃声が轟く中、ウンストルト河右岸の前哨に残っている騎兵連隊と歩兵一個大隊が応戦していると報が続いた。
総予備隊はいつでも出動できるように待機と指令が出た。大隊から各中隊、各小隊へ命令が言い渡される。
「いよいよだ。我々の故郷カレンブルクを、ハノーファーを侮辱したプロイセンにその罪を購わせよう。
戦友諸君、ともに進もう!」
鬨の声を上げ、士気を上げる。空元気だろうとなんだろうと、兵士たちには勇気を出していてもらわなければならない。
絶え間なく銃声が響き続ける。どちらの軍の銃かなど聞き分けられない。しかし、後装式の銃を標準で装備しているというプロイセンの射撃の間隔はどれくらいのものなのか。騎兵連隊は対応できているのか、努めて顔に出すまいと、耳を澄ませていた。
やがて、伝令により指令が伝えられた。
「予備隊前進し、対岸で応戦中のスツールベ大佐の歩兵大隊を援護し、ウンストルト河右岸を守り切れ」
勢いづいているのか、苦戦しているのか、もどかしい。
「敵を蹴散らせるぞ」
緊張を自覚しながら、声を掛けた。
射程距離を計りながら進む。河岸が見える所まで近付くに従って、戦場の様子がはっきりと展開してくるのが判る。ハノーファー軍が押されていた。
速い。
プロイセン軍は次々と銃弾を浴びせてくる。ハノーファー軍は前装銃。撃ったら、銃身を上に向けて弾籠めをしなくてはならない。姿勢自体正さなければできない動作だ。そこを狙われてはたまらない。河岸の身を隠せる場が少ない中、銃撃したら大きく後ろに下がって弾籠めしなければ、標的にされてしまう。河岸は木立も岩陰も少ない。わずかな段差に身を潜めての弾籠めだ。
一方プロイセン軍は後装式の銃、撃ち終われば姿勢を変えずに手元で次の銃弾を装填できる。低い姿勢のまま、或いは腹ばいのままで、短い時間で装填・銃撃を続けられる。
馬だろうと、歩兵だろうと、これでは接近戦でない限り不利だ。犠牲を覚悟で量で押していくしかないか。
とにかく、苦戦する前哨の歩兵を援護するため、前進するしかなかった。
スツールベ大佐の歩兵大隊は、友軍の前進を知り、後退した。持ちこたえられそうもないと判断されたのだろうし、予備隊から撃たれたり、踏みつけにされたりしたら大変だ。
歩兵たちが河を越えてきて近くまで下がり、後はこちらも準備していた通り、号令とともに銃の撃ち方を始めた。しかし、やはり応戦する銃撃は次から次へと雨霰のように注いでくる。右岸を死守できないと見切ったのだろう、一旦退却の指令が出された。
奇策がなければ、正面から行っても的になるだけなのか。胆汁のような苦みを感じた。




