七
全軍の方向転換、移動に、兵士たちが戸惑い、時間が掛かった。
「なんで目的地を変えて、戻るんだ!」
「知るかよ。とにかく置いていかれないようにしよう」
「はぐれたらプロイセン軍の捕虜になっちまうぞ」
動揺が波になって拡がっていく。だがここは士官として率いる中隊をまとめなければならない。冷静になれといっても、逆効果であろうから、迷子になるな、付いて来いと言い続け、引っ張っていく。
ウンストルト河を全軍渡り切ると、橋を爆破した。夏のこととて河の水が冷たくても死ぬことはない。腰くらいの高さで、川幅も向こう岸を見通せるくらいの距離だ。だが、橋を破壊してしまえば大砲は渡せないし、馬もこの深さでは足元が危うかろう。対岸のアイゼナッハにいるプロイセン軍を進ませないためだ。
河畔の東側に一度荷を下ろし、陣の組み方の指示を待つ。
軍司令官アレントシルト中将は東河畔のキヒルベルクの高地に本陣を組み、我々カレンブルク南部軍団はハノーファー軍の予備隊のクネゼック少将の旅団とともに中央後方に陣を張った。北側、右翼にはビューロー旅団、中央隊にはヴォー旅団、南東の左翼隊にはボートメル旅団を配置させた。中央隊の歩兵一大隊とケンブリッジ騎兵連隊を西側対岸に置き、前哨として警戒に当たらせた。
一万五千人を超える軍隊だ。河の流れに沿って、拡がりと厚みがある布陣となった。
カレンブルクからここまでプロイセン軍から追われるように移動してきた。今度こそは転進せずに、プロイセンと戦えそうだ。ハノーファー軍の予備隊とともに後方に控えることになるが、アイゼナッハに進軍しているプロイセン軍の規模が正確に把握されていない。恐らくはハノーファー軍同様の多数で動いているはず、予備軍と我が軍の投入があるだろう。
「中尉どの、どうなるのでしょう」
若い二等兵は不安げなままだ。
「我々は予備隊だ。戦況を見ての出動だろう。まずは気を落ち着かせて、武器を携行しているように、な」
「はい」
ホップ伍長はその様子を見ている。中隊の中の、小隊でも下士官が兵士たちにあれこれ説明したり、景気づけの言葉を掛けたりしているだろう。作戦の駒になる兵士たち、指示を受け、戦術を遂行し、また駒と動く下士官や士官。
どうか勝利を。ドイツの地はプロイセンのものだけではない。小国といえども、ドイツの地に栄えた我々にも力があったと示したい。
生きた証を。
ここが死に場所となろうとも、俺は戦う。俺の名が忘れ去られようとも、この大地、この河は、血の受け皿となる。それで充分だ。
感傷に浸るのはここまでだ。夏の星座を見上げ、幕舎に戻った。眠くなくても眠らねばならぬ。睡に身をゆだねた。
六月二十七日、朝、起床後、食事を終え、皆が持ち場に就いた頃、銃声が響いた。一発や二発ではなかった。
前哨の騎兵連隊がプロイセン軍を発見と報告に走ってきたと、知らせが入った。




