一
後から必ず寝台に行くからと、ベルナデットに約束し、先に彼の女を休ませた。一緒に床に就いたら、相手の寝姿が気になるどころではなくなる。
今後婦人同伴の条件が出たら彼の女を連れて行こう。そうすればたとえ一度きりでも気が済むだろうし、ゴルツ大使に引き合わせておくのもよかろう。
但し、飽くまでベルナデットは社交の場での同伴者。気働きの役をしてもらう必要はない。彼の女には流行りの意匠を見る機会としてもらう。
遅れて寝室に入り、彼の女の呼吸を窺った。眠ったようだ。そっと端に横になった。
眠れないのではと思ったが、そんなことはなかったらしい。らしい、というのはベルナデットが寝返りを打ったのにはっと驚いて闇に気付いたから。寝返りで俺と手がぶつかったようで、ベルナデットの呟きが聞こえた。
「良かった。ここにいた」
いなかったら蹴とばすつもりだったと続き、また寝息になった。間近に女性がいて何の苦行かと感じたが、眠気が勝った。
日曜日の朝、狭い寝床で早くに目覚めた。瞼を開いて間近のベルナデットの姿を捉え、寝息に耳を澄まし、改めて体温を感じ取る。冬でも暖かく、しかしこれでは尚更床から出られない。いつの間にか彼の女に触れ、彼の女もまた俺に触れ、抱き合い、もつれ合う。“Non.”と白い両の手が俺を押し返そうとしたが、構わず首筋に口付けをすると彼の女は息を乱し、俺の肩に力なく手を置いた。兄妹のように過そうなんて、所詮聖人ならざる俺たちには無理なのだ。理性の砦はどこへやら、求めずにいられない。欲するままに体中に唇を寄せ、溶け合うかと思うほど強く強く抱き合う。
汗ばむほどではないが、もう寒さを感じない。だが寝台から出る気にならなくて、ベルナデットに腕枕をして横たわる。
「お早うの挨拶が後になったわね」
気にしているふうもなく、彼の女が言った。
「もう起きる気なのか?」
「さあ?」
まだ寝台を出る気はないらしい。それでもぐるりと体を動かして俺の腕から出た。寝台の端で肘を突き、手に頭を乗せる。
「あなたがストーブを点けてくれるんでしょう? 体を拭いてからきちんと身支度したいから、そのお湯を沸かすのもしてくれる?」
言われてみればその通り。俺も同様の身支度をしたい。
「仰せのままに」
ややみっともない姿を晒しながらストーブを点け、薬缶に水を入れてストーブに置いた。寝台にまた戻って、ベルナデットの肌に手を這わせた。くすくす笑いを漏らしながら、ベルナデットは手厳しい。
「さっきので気が済んだんじゃないの? いつまで経っても起き出せないじゃない。ここのマダムが朝ご飯を持ってくるんでしょ?」
「様子が違うと判れば、向こうの部屋に置いていく」
彼の女の胸をくすぐろうとしたが、彼の女は俺の手を取って許さなかった。
「朝からこんなじゃ疲れて家に帰れなくなる」
先程までの酔い痴れたような焦点の合わないぼんやりした目付きはどこへやらで、ここでしつこく愛撫を続けるのは見苦しいと覚らざるを得ない。赤裸で床を出て、ベルナデットは髪を梳かした。くるりと髪をまとめ、薬缶のお湯を洗面器に入れ、もう一度抱き合わない代わりに目の保養をしてちょうだいと言わんばかりに神々しい姿を見せつけながら体を拭った。
「お先に失礼させてもらったわ」
下着を身に着け、ベルナデットは寝台に腰掛けた。身繕い途中のしどけなさに刺激を感じるが、いつまでもふざけていられまい。




