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君影草  作者: 惠美子
第七章 戦いへ
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 オーストリア軍の列車が走り去って、ハノーファー軍は別の列車を出すかどうか、話し合いが始まったようだ。カレンブルク南部軍団はそれに付いていくのか、本国に戻るのか、大隊長の命令を待つしかない。

 ヴァイゲル少佐の副官が尉官たちに集まるよう声を掛けて回ってきた。兵士たちに平静さを保って待機するよう告げた。すがるような視線がいつまでもまとわりついてきた。

 急ぎ足でヴァイゲル少佐大隊の尉官たちが集まってきた。少佐は視線を落としていた。

「プロイセンから宣戦布告があった」

 俺たち尉官は顔を見合わせた。予想できていたこととはいえ、やはりこの言葉は重い。

「カレンブルク、ハノーファー、ザクセン、ヘッセンはプロイセンと戦火を交えることとなる」

「それで我々はどうするのですか?」

 シュミットが尋ねた。

「シュテヒリング中将たちが今もめている。本国に無事に戻れるか、本国での戦いに間に合うのか、それとも南下して連邦軍と合流した方が有利か。

 結果が出るまでは動けない。ハノーファー軍は留まって市街戦をする気はないようだから、いずれ我々もここから出なければならないだろう。気が休まらないと思うが、しばらく待て。オーストリア軍のやりように殺気立っているが、なんとか押さえてくれ」

「交替で休息させてよろしいですね。全員徹夜しては動けなくなります」

「そこは任せる。こちらも落ち着かないことには息切れしてしまう」

 少佐が下がるよう合図をしたので、皆それぞれの持ち場に戻る。

「アレティン、どこで戦うことになると思う?」

 歩きながらブルックが訊いてきた。

「難しいな。東へ向かって帰国するより、南下する方が素早くできるかも知れないが、国が心配でもあるし……」

 シュミットが立ち止まった。

「それを決めるのは俺たちじゃない。アレティンは参謀役のお気に入りだろうが、作戦の立案なんてしたことがないだろう」

 こちらも立ち止まってシュミットを睨みつけた。

「そうさ、俺には何の権限もないし、作戦だって立てやしない。地勢や相手の鉄道を使った移動の速さを考えて言っているだけだ。俺は先に行く」

 シュミットと戸惑い気味のブルックを置いて、駆け足でその場を去った。

 中隊に戻って、夜明けまで交替で休憩を取ると指示した。シュテヒリング中将が結論を出すのも、ハノーファー軍が鉄道を動かしはじめるのもそれくらいの時間だろう。

 夜が明けて再び収集が掛かる。

「シュテヒリング中将が本国との協議の結果、このままハノーファー軍と共に南下し、南部の連邦軍と合流する。まずは南のゲッチンゲンに向かう」

 ハノーファー軍の列車に乗せてもらっての移動だ。足手まといとならぬよう気を付けるようと、言い添えられた。

 国境西側にはペーターゼンが、首都昴(プレヤデン)にはシュルツがいる。故郷を守る場にいられなかったのは残念だが、我々は弱卒ではない。故郷を、喪いたくない人たちを守ってくれ。

 列車に乗り込み、揺られながら、願うばかりだった。

 ハノーファー国王ゲオルク5世はいとこのヴィクトリア女王が治める英国に北海経由で私有財産を送り、王妃と王女をハノーファー市に残し、王太子とともにゲッチンゲンへ走る。

 我が主君ゲオルク2世は西部の師団に迎えられただろうか。無事に首都に入られてください。国王がいれば国民は安心し、兵士は勇気づけられる。

 ゲッチンゲンへ、長い旅になりそうだ。

 自らの足で歩まないだけましだと思おう。手足が自分自身のものとの感覚がなくなっている。まるで他人の手足のように目に映る。

 虚しさも寂しさも全て気の迷いだ。少し休め。そして気力で胸を充たせ。全能感を取り戻せ。相手はプロイセンだ。相手にとって不足はない。

 戦うために俺はここにいるのだから。

カレンブルク王国は架空の国ですので、史実の上で宣戦布告を受けたのは、ハノーファー、ザクセン、ヘッセンの三国です。

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