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君影草  作者: 惠美子
第四十三章 激しい風の吹くままに
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「魅力的な人ですね」

 とボーションが率直な感想を述べた。俺はレオニー・レオンと知り合った経緯(いきさつ)を手短に語り、親しい人物ではないと付け加えた。こちらは何も気にしちゃいませんよ、とボーションは肩をすくめてみせた。

「ラ・パイーヴァ夫人がらみでしたか」

「損得抜きで巴里娘(パリジェンヌ)とお近付きは難しくてね」

「お故郷(くに)に許嫁がいらっしゃるんでしょう? なるべくお行儀よく過されるべきです」

 言われるまでもない。

 しかしゴルツ大使の護衛を兼ねてテュイルリー宮での宴に赴くとポーリーヌ・ド・デュフォールの姿を見掛ける。間諜同士、上辺だけ愛想よくしているのだと割り切っていても、彼の女の眼差しには抗いがたい誘惑を感じる。ヒヨコと呼ばれても知性としなやかさを併せ持つ彼の女の口からなら反論する気が失せる。

「スペインの女王様のご家族はフランスにいらして一安心といったところなのでしょうか?」

「さあ、どうなのかしら? どこの王族も同じだけれど、スペインの女王陛下にとって我が国の皇妃様はかつての臣下。女王陛下の妹君の結婚相手はオルレアン家の王子様。普段親しい行き来がなかろうと、縁があるとなると黙っていられなくなる。この宮廷がうるさくならないように祈るしかないわ」

 ああ、そういえばプロイセン王家とも辿れば縁があったかも知れない。革命反対とイザベル2世擁護、そして血縁のあるヨーロッパ各国の王族が王位継承を主張して大きな争いが今後起こるか可能性がなきにしもあらず。

 考え込む俺にマダム・ド・デュフォールが悪戯っぽい笑みを浮かべて、秘密を打ち明けてあげると囁いた。

「スペインの王配殿下はね、女王陛下よりもお洒落に詳しいんですって」

 思わず苦笑いだ。女性にとって女王陛下の夫の性向は気になる事柄なのか、それともこちらに大切な情報は教えないと決めているのか。まあ、どちらでもいい。こちらだって伯林からの指令を知らせる義務はない。

「女王と一緒に亡命してきたアルフォンソ王子はこちらの皇太子殿下とお年が近いのでしょう? 仲良くできるかも知れませんね」

「殿下にとって将来有利な投資になるかも知れませんからね」

「なるほど」

 女王自身が復位できなくてもその子が王位に就く夢を託せる。恩を売っておく機会を逃さない。スペインの革命政府は次々と改革案を提出し、憲法制定の為の議会選挙を実施すると発表した。選挙結果によってどのような政治勢力が伸びるか、新たに定められる憲法で王室の立場も変わってこよう。

「女王陛下は宝石を持ち出せたそうだし、ロスチャイルドに預けた資産が大分お有りになる。ご自身とご夫君が生活する分に苦労はなさらないでしょうけど、お子様方の先々まで間に合うとは断言できませんもの、親の情としてどう動くか思案のしどころでしょう」

 名誉や地位だけで食べていけるのならそれでもいいが、上つ方は難しい。

 秋が過ぎ、冬の気配が一段と濃くなってきた。十一月十四日、巴里でドレクリューズの裁判が執り行われる。

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