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君影草  作者: 惠美子
第七章 戦いへ
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 武器弾薬や食料・医療品をまとめて、オーストリア軍のガブレンツ将軍がハノーファー市を列車で通過すると予想される時間に合わせて、こちらも移動準備を始めた。ランゲンハーゲンから大した距離ではないが、市街地に軍人と軍の物資がなだれ込むように入ってきたので、市民には異様な風景だっただろう。こちらには心理的な余裕が無かった。列車の時間が真夜中になるらしいと聞いて、夕食後に自由時間ができた。誰かが新聞を買いに行ったり、飲食店での買い物のついでに巷での話を仕入れてきたりしていた。

 俺も一服だけと、ブルックや下士官とともにカフェに入った。備え付けの新聞を広げ、皆と頭をぶつけそうになりながら記事を追っていった。

『連邦議会、プロイセンへ非難決議』

『プロイセン、連邦議会脱退』

『プロイセンが、ハノーファー、ザクセン、ヘッセン、カレンブルクに武装解除を要求』

 見出しが大きく目に飛び込んでくる。心が逸り、内容を把握するのに手間取った。つまり、プロイセンのシュレスヴィヒ侵攻を、オーストリアをはじめとした各諸邦が非難したため、プロイセンは連邦議会に反発し、このまま戦闘を続けると宣言したのだ。その上で、プロイセンと国境を接するハノーファー、ザクセン、ヘッセン、そして我が国に局外中立及び武装解除をしろと突きつけてきた。そうすれば攻撃をしないし、領土の侵略もしないとの内容だ。それも今日の新聞記事を信ずると、その要求は午前に出されて、返答は十二時間後、今日のうちときた。外交交渉ではなく、脅しだ。反戦主義者でも諾と即答できるものか。

 コーヒー一杯でも少しは気が鎮まった。

「とにかくオーストリアと組むのだろう?」

「それしかないだろう」

「短期で決着がつけられるかどうかだな」

 それぞれの中隊・小隊の兵士たちも同じようなニュースを耳にしてきているはずだ。動揺しているかも知れない。だが、プロイセンとの戦いはどの道避けられない。見せかけだけでも平静を保たなければ。

 時間が来て、集合する。それぞれ持ち場に就き、運搬する武器や荷物を確認しておく。

 うつらうつらしながら、時刻が過ぎる。

 夜中、列車の近付く音がした。皆、眠気を払い、列車が停まるのを待った。しかし、列車は速度を落とさなかった。線路からやや離れた位置にいた我々にもはっきりと列車の様子は見て取れた。

 オーストリア軍を乗せた列車は、ハノーファー市で停車することなく、少しも速度を緩めずに通過していった。

 怒号と落胆の悲鳴が上がった。

 俺は声こそ上げなかったが、膝を着きそうになった。人が人を見捨てることがあっても、国が友誼を結ぶ国を見捨てることがあるのか。

 女が男を裏切っても、友と仲たがいをしても、人の集合体でもある国は人民の暮らしを守るためにあるものだ。それが、大ドイツの中で意見を同じうする国を黙って通り過ぎ、プロイセンの軍靴に踏みにじられるかも知れないのを見過ごすのか。

「オーストリア軍は我々を必要としないのか!」

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