六
諸手を上げての賛成を得られない。伯母が乗り気でなければ実行は無理か。
「ヘンなこと言って気を悪くした?」
ルイーズが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「いや、招待すればみんな喜んでくれると勝手に思い込んでいたんだから、構わないよ。
みんな、どう過したいとか、どこに行きたいとか、それぞれあるのだろうしね」
ママンはどう? とルイーズはマリー゠アンヌに尋ねた。彼の女は俺とベルナデットの思惑に気付いているのだろうが、娘と母親の前で考え込む素振りをしてみせた。
「そうねえ。わたしも出掛けるのが億劫な方だからねえ。
汽車の時刻表とか、駅での乗り換えとか、汽車を降りたら荷物を自分で運ぶのか、人を雇って運んでもらうのか、駅から馬車を頼まなきゃいけないのかとか、気にしてしまう」
マリー゠アンヌは両手をひらひらとさせて微笑んだ。
「せかせかしちゃってゆとりある行動のできない性分なのね」
それに、と付け加えた。
「お約束の時期との作業の進捗がまだ見えない品があって、店を空けたくないのが正直なところ。
でも皆が行きたいのなら、わたし抜きで行ってらっしゃい」
仕事を持ち出されると、ベルナデットは気が引けるようだ。
「アンヌにそう言われると困っちゃうわ」
「わたしが受けた仕事だし、お針子の監督をするだけだから、気にしない気にしない」
その場では結局決められなかった。
「今更遠慮するようなことを言われると、わたしも辛いのに」
俺を見送りながら、ベルナデットは姉に対する不満を口にした。
「マリー゠アンヌが遠慮している?」
「そうよ」
「俺がしょっちゅう来て邪魔だと感じている? 親しくなれたと思っていたが、マリー゠アンヌはそう思っていない?」
裏口から通りに出て、俺たちの会話を聞く誰も者はいない。それでもベルナデットははっきりとした言葉を出せないようだ。しばし口ごもり、視線は足元をさまよった。
「嫌われているのかな?」
ベルナデットは首を振った。やっと俺を見る。
「そんなことないわ。ただ、自分まであなたの好意を受けていいのかしらと感じることがあるらしいの」
俺まで今更? と思うぞ。
「彼の女がそう言ったのか?」
お喋りの中で冗談めかしていたけれど、と付け加えながらベルナデットは肯いた。
「もしかして俺との間柄を気にしているのか?
マリー゠アンヌは伯母の長女で、マ・シェリの姉で、血は繋がっていなくても俺にとっては大切なラ・ヴァリエール家の一員だ。従姉とも姉とも思う」
「ええ、アンヌだってそう思っているわよ」
「だったら何故?」
「多分、これはアンヌの気持ちの問題なのよ。母やわたしがあなたからあれこれ世話を焼かれて贈り物をされるのは当然でも、自分まで受けるのはおかしくないか、過分なんじゃないかと感じてしまうみたい」
自立して働く女性の心理というべきか。いつぞやかベルナデットも似たような主張をしていた。




