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君影草  作者: 惠美子
第七章 戦いへ
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「シュレスヴィヒにはオーストリア軍が駐在しているのだから、応戦しているのか」

「我が軍はすぐに戻るのか、それともハノーファー軍や連邦軍と合流して戦うのか」

「まだ何も判らん、決まってもいない。とにかく今確認できている状況だけしか言えん!」

 プロイセン軍のシュレスヴィヒ侵攻を尉官たちに伝えに来た大隊長のヴァイゲル少佐に詰め寄っても、少佐も詳細を知らないらしい。

 この報から次はどういった行動に移すか、上の方で鳩首しているのだろう。本国からの指示もあるかも知れない。この演習の為に率いてきたのは人数を制限したとはいえ、両軍団を合わせて一万人ほどの大所帯、どうするか決まらなければ荷物を畳むこともままならない。これから我々尉官たちは部下の下士官や、率いる中隊や小隊の兵士たちにどう指示したものか。苛々しながらの待機か。

 自らの中隊に説明しに行くと、やはり驚愕し、心許ない表情を見せる。そこは上官としてなだめて、静かに指示を待つように伝えた。人間はともかく、馬は人の心が読めるのか、落ち着かない。

 腹だけは減るので、とにかく食事は摂る。その時ばかりは兵士たちは安心している。

 追って、連邦議会でオーストリアがプロイセンのシュレスヴィヒ侵攻は不法と訴えたと情報が入ったが、それでプロイセンが謝って兵を引くはずがない。

「我が主君ゲオルク2世とハノーファー国王はハノーファー市に滞在中。シュレスヴィヒ駐在のガブレンツ将軍は既に撤退し、南下しているとのことだ。我々もハノーファー市に移動して、墺軍に合流して、南下する。国王陛下は近衛兵の護衛で、急ぎ首都へ戻られる」

 やっと方針が決まって、作業が開始される。緊急時、我が主君が国に戻られるのは当然だ。この大所帯の移動と一緒では、時間が掛かると判断されたのだろう。ひとまずは我が主君の無事が確認された。

「プロイセンは本気で一戦やらかした」

「シュレスヴィヒの墺軍はプロイセンが攻めてきたと聞いただけで何もしないで逃げ出したらしいぞ」

「なんでこの時期に」

「とにかく、普軍が来たら、迎え撃つだけだ」

「応とも!」

 不安な要素から抜けきれないが、とにかく、墺軍と合流して陣を整える。普軍と戦うと、心を奮い立たせる。何事も気力で負けてはならない。中隊の兵士たちに上官の不安を悟らせてならない。

「アレティン中尉、大丈夫でしょうか」

 泣きそうな二等兵、俺より少し年が若いくらいだろう。

「大丈夫だ。オーストリア軍に合流さえすれば、安泰だ。カレンブルクもハノーファーもオーストリアと同調している。オーストリア軍と合流すれば、展開は明るくなる」

 兵士を勇気づけるだけでなく、自分の覇気を保つためだ。

 突出するな、慌てるな、そして状況を見極めろ。今は昂りを押さえ、下手に消耗してはならない。

 来るべき戦いの(とき)を前に血の騒ぎを覚えていた。

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