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君影草  作者: 惠美子
第六章 嵐の前
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 五月の同じ月の内、ドイツ連邦議会でザクセン王国がプロイセン王国の軍備強化を批判した。だが、ドイツ諸邦で軍を持たない国はない。プロイセン一国を責めるのは筋違いと、六月一日に各諸邦の軍備について話し合いをしようと取り決められた。茶番とも、駆け引きとも言える。

 こちらはこちらで同日にはハノーファー市に移動しなければならない。プロイセンとオーストリアの動向は気に掛かるが、自分の職務を放り出せない。今はカレンブルク王国の守備、ハノーファー王国との友好と合同演習に専念しなければならない。

 鉄道が敷設されている地域とそうでない地域、双方を通るため、馬の機嫌を取るのには手間が掛かる。貨物台に乗せて、一緒に厩舎の係の者も乗り込めば、なんとか落ち着いて出発できる。

 我が主君も友誼のため、ハノーファー市に赴くが、陛下は近衛兵たちと別の道筋で向かう。

「列車と馬車とどっちが乗り心地がいいと思う?」

「どっちもどっちだ。座っていて尻が痛くなるのは同じだよ」

「王様の車は乗り心地がいいだろうよ。サスペンションもクッションも」

 我が主君ゲオルク2世は、今回の合同演習にあたって、ハノーファー国王のゲオルク5世と共に臨席する予定になっている。

 ただの軍事演習であれば夏場の恒例行事であるが、国王の表敬訪問も兼ねているので、双方の国にとってプロイセン王国への思惑もあるのだろう。プロイセン王国がドイツ連邦での主導権を得たいと頑張っているのはいいが、オーストリア帝国にむやみに挑戦的であったり、自由主義者に譲歩するような提案をしたりと、君主を推戴している国として危うい賭けをしているように見える。外交も内政も軍人のカード遊びや決闘とは違う。

 ハノーファー市から北のランゲンハーゲンへ移動が完了し、俺たちはそれぞれの臨時の幕舎などを建て、馬を休ませ、武器や食料などの荷物ほどきをはじめた。

 初夏なので日は長い。だが、日が暮れれば冷えるので、さっさと寝場所を作らなければならない。簡易の幕舎ができれば野外で食事を摂る。イギリス人のやるようなピクニックの気分で、一日目は過した。

 二日目にはわが軍のシュテヒリング中将とハノーファー軍のアレントシルト中将とが並び、我々もハノーファー軍との朝礼と簡単な修練を行った。

 双方の国王陛下が臨席するのはその二日後の予定で、礼儀正しく、しかし、どこかお客様の、のんびりとした雰囲気だった。

 シュレスヴィヒ公国駐在のプロイセンの軍隊が、オーストリアが統治するホルシュタイン公国に侵攻を開始したとの報が入ったのは合同演習の予定の日、当日だった。

「一体どうなっているのか!」

 普段とは違う場所で、どこまで正確な情報なのか、どこまで緊迫しているものなのか、雲を掴むようで、不安が募った。

 我が主君はどう身を処する、そして我々は。(プレヤデン)の屋敷に残っている者、フランクフルトのアンドレーアスやアグラーヤ。

 大きな動乱の火種となるのだろうか。

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