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君影草  作者: 惠美子
第六章 嵐の前
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 五月に入ったある日、昼食後の時間に、面会を願う者がいると下士官が連絡してきた。

「お忙しいなら、お断りしても構わないと言っておりました」

「ホップ伍長、その人物の名前は?」

「アンドレーアス・ディナスと名乗られました。ご婦人を同伴されております」

 懐かしさが口元に笑みを作らせた。

「こちらを離れるのに少し掛かるので、半刻ほどお待ちいただけるのなら会うと伝えて欲しい」

「了解しました」

 乗馬をしようと思っていたが、そこはブラシかけてやるだけにして、馬の機嫌を見ていてくれと、士官仲間に頼んで、厩舎から出た。道具を片づけ、手を洗い、急いで面会場所の建物へ足を運んだ。婦人が連れとは、婚約でもしたのか。鏡くらい見た方が良かろうが、待たせるのも悪い。手紙の遣り取りは続いているが、乳兄弟と顔を合わせるのは何年振りだろう。

 兵舎の入口近くにある面会室の扉を叩き、開けた。

「オスカー、久しいな」

 アンドレーアスは両手を広げて、出迎えてくれた。俺とアンドレーアスは互いを抱き締めた。

「アンドレーアス、久闊」

 互いの進む道は変わっても、共に生活してきた根はどこかで繋がっている。少年から二十代半ばになりながら、昔の面影を見出して、ふと安心する。

「オスカー、馬の匂いがするぞ」

「軍馬の機嫌を取るのも仕事なんだよ」

「ご婦人も連れてきているってのに」

「結婚するのか?」

「違うよ。お連れした方をよっくと目を開けて見ろよ」

 アンドレーアスの後ろに佇む女性にやっと気が付き、俺は目を見開いた。

「フロイライン!」

 アグラーヤ・フォン・ハーゼルブルグがそこにいた。アグラーヤは苦笑していた。

「お久し振りです。ご機嫌よろしう、アレティンさま」

 アグラーヤは優雅に腰をかがめ、俺は慌てて礼をした。

「しがない家庭教師なのですから、そんな丁寧なお辞儀は要りませんわ。

 それよりも、乳兄弟どのとの再会をお邪魔してしまって申し訳ございません」

 俺は二人に掛けるように勧めた。

「いや、それよりもどうして二人でここに?」

 二人は笑った。気が合っているのじゃないのか。アンドレーアスが簡単に説明した。

「フランクフルトに行くのさ。俺は商用で、ローンフェルトさんは一家でしばらく向こうで暮らすというから、家庭教師どのも一緒に引っ越しだよ。

 もののついでで、俺も同行させてくれたから、南部を通る時にオスカーと面会する時間をくれとお願いしたら、快く許可してくれた」

「ほう」

「誤解するなよ。フロイラインはあんたに会いたいと言って付いてきたんだ」

 補うようにアグラーヤは続けた。

「ええ、わたしからディナスさんに我が儘を言って付いてきましたの」

「いや、アンドレーアスが女性を連れてと聞けば何事かと思ったものです」

「あんただって人のことは言えないだろう」

「全くだ」

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