表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君影草  作者: 惠美子
第六章 嵐の前
36/486

 我が軍団の長シュリヒテング中将と、ハノーファーのアレントシルト中将がハノーファーの地で合同演習をすると決められ、その準備で慌ただしさが増した。

 馬の世話、銃器の手入れはいつにも増して慎重になる。下士官や兵士たちへの指示や、訓練にも熱が入る。

 射撃訓練場に行けば、既に何人かが射撃を行っている。我々が与えられている小銃は前装式の銃だ。私費で連発銃や後装銃を手に入れている者もいるが、あくまでも私的な行為だ。私費で賄えない大勢は配給される小銃で戦うことになる。

 後装銃は前装銃よりも射程距離が短いそうだが、銃弾の装填が姿勢をあまり変えずに早くできるのが利点だ。後装銃はまだ開発途上の品らしく、故障しやすい、まめに掃除をしないとすぐに銃身が詰まるとかで、私的に所有する者はあまり自慢しない。(自慢したらしたで、そねまれて壊されても困るからだろう)

 演習で後装銃が便利だとある程度証明されれば、標準装備として採用されるかも知れない。要人の狙撃なら射程距離が長い方がよいに決まっているが、集団で攻撃となったら速度が物を言う。その際は射程距離云々より、次々と射撃を行い、その援護射撃を受け一斉に突撃していくことになるだろう。

 小銃を打ちながら、胸にわだかまるものを一緒に吹き飛ばしたいと皆考えるのだろう。銃弾を無駄にしてはいけないと判っていても、つい余計に打ち込みたくなる。

 小一時間ほど射撃訓練をして、訓練場を出た。小銃の手入れをして、ふと息を吐いた。銃の重みが命の重さとなる。この金属の塊に命を預ける(とき)が来る。

 射撃訓練場からシュミットが出てきた。視線が合い、俺は手を振ってみた。シュミットは手を上げてくれたが、目をそむけるようにして歩いていった。仕方がない。ここはお友達の集まりではない。

 リース大佐は不機嫌と判っているので、あまり近付きたくない。それに軍団長のシュテヒリング中将に貼り付いて、あれこれ意見しているのに違いない。

 高揚とも不安とも言えない緊張感がずっと続いている。なに、期日が来るまでの間だ。夕刻が過ぎれば、酒やカードで憂さを晴らす毎日だ。

 銃撃、騎行、危うさを伴う刹那の中に、激しく脈打つ鼓動を感じる。俺が軽薄なのではない。そうでもしていないと、生きている気がしないのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ