四
我が軍団の長シュリヒテング中将と、ハノーファーのアレントシルト中将がハノーファーの地で合同演習をすると決められ、その準備で慌ただしさが増した。
馬の世話、銃器の手入れはいつにも増して慎重になる。下士官や兵士たちへの指示や、訓練にも熱が入る。
射撃訓練場に行けば、既に何人かが射撃を行っている。我々が与えられている小銃は前装式の銃だ。私費で連発銃や後装銃を手に入れている者もいるが、あくまでも私的な行為だ。私費で賄えない大勢は配給される小銃で戦うことになる。
後装銃は前装銃よりも射程距離が短いそうだが、銃弾の装填が姿勢をあまり変えずに早くできるのが利点だ。後装銃はまだ開発途上の品らしく、故障しやすい、まめに掃除をしないとすぐに銃身が詰まるとかで、私的に所有する者はあまり自慢しない。(自慢したらしたで、そねまれて壊されても困るからだろう)
演習で後装銃が便利だとある程度証明されれば、標準装備として採用されるかも知れない。要人の狙撃なら射程距離が長い方がよいに決まっているが、集団で攻撃となったら速度が物を言う。その際は射程距離云々より、次々と射撃を行い、その援護射撃を受け一斉に突撃していくことになるだろう。
小銃を打ちながら、胸にわだかまるものを一緒に吹き飛ばしたいと皆考えるのだろう。銃弾を無駄にしてはいけないと判っていても、つい余計に打ち込みたくなる。
小一時間ほど射撃訓練をして、訓練場を出た。小銃の手入れをして、ふと息を吐いた。銃の重みが命の重さとなる。この金属の塊に命を預ける秋が来る。
射撃訓練場からシュミットが出てきた。視線が合い、俺は手を振ってみた。シュミットは手を上げてくれたが、目をそむけるようにして歩いていった。仕方がない。ここはお友達の集まりではない。
リース大佐は不機嫌と判っているので、あまり近付きたくない。それに軍団長のシュテヒリング中将に貼り付いて、あれこれ意見しているのに違いない。
高揚とも不安とも言えない緊張感がずっと続いている。なに、期日が来るまでの間だ。夕刻が過ぎれば、酒やカードで憂さを晴らす毎日だ。
銃撃、騎行、危うさを伴う刹那の中に、激しく脈打つ鼓動を感じる。俺が軽薄なのではない。そうでもしていないと、生きている気がしないのだ。