六
カトリックの教会で、神の子の生誕を祝い、良き日に感謝する。荘厳な場所でのミサで、祈り、共に讃美歌を歌った。寒さは身を清める感覚を強くする。呼吸をする度、冷気に満たされ、心は磨かれたように澄んでいく。
教会を後にして肩を寄せ合いながら、家路を辿り、迷いから救われたような気分の子羊はすっかり敬虔な気持ちになっている。
このような夜に姦淫の罪を犯す気にならない。空いている部屋を使ってくれと案内されれば、素直に従おう。教義の違う教会に行った分、一人でまた祈りを捧げることにする。
「二人きりでゆっくり過ごせる機会を考えるよ。今夜はもう休む」
ベルナデットにそう囁くと、肯いた。
「そうね。夜更かしする人もいるかも知れないし、また機会はいくらでもあるわよね?」
「ああ」
ベルナデットはお休みの接吻をしてくれた。ほんの少し手を伸ばし、抱き締めれば望む温もりと柔らかさを得られるのを互いに我慢し、今夜は清らかな夢を見よう。節度を保つのは大切だ。
借り物の寝台で横になっても、野営地よりはまし。眠りは違わずやって来てくれる。闇に誘われ、祭りの夜は終わる。
しんと静まり返り、全てが源に還ったかのような温度の中で、世界が動き始めたのを感じた。朝日が差し、街路を進む馬車の音、人の気配、この家の中でも誰か起き出しているよう?
置かれているストーブに火を熾した。もう一度毛布を被って、懐中時計とその鎖を眺めた。ベルナデットから贈られた鎖を掌に滑らせると、彼の女の肌の柔らかな官能が思い起こされた。異なる感触なのに快いとはおかしなものだ。寝床を抜け出して身支度をしているうち、何人かが食堂を通って厨房に入っていく足音が聞こえた。前の晩にご馳走を食べても、翌朝は翌朝、お茶でも牛乳でも、一応温かい物を口にしないと動き回る元気が湧いてこない。
食堂に行くと、伯母とマリー゠アンヌがいた。
「ご機嫌よろしう」
「お早う」
挨拶を済ませると、支度の続きが始まった。
「昼に重いものを出すから、朝はお腹が鳴らない程度にするのよ」
「ええ、判りました。お手伝いします」
言われて皿を並べ、湯の沸いた薬缶をストーブから下ろした。
「お早う」
元気な声、眠そうな声、様々な響きが食堂にやって来る。
「降誕祭おめでとう」
席に着き、唱和した。紅茶とパン、それに焼き菓子らしい皿が出された。ルイーズやお針子たちが可笑しそうにしていて、ベルナデットが決まり悪そうにしている。これは何も言わない方が無難なようだ。それに出された食事の内容にあれこれ言うのは失礼だ。ここは食通が気取って座るレストランではない。
しかし、ルイーズは黙っていられないようだ。重大な秘密を明かすかのように、俺を窺った。
「お兄さん、これなんだか判るかしら?」
皿に盛られた、焼き色の濃いクッキー、形が不揃いだが、これが自家製というものではなかろうか。香りからしてジンジャーなどのスパイスを使い、アイシングで模様を付けて、見た目はともかく、味は悪くなさそうだ。俺が黙っているので、ルイーズは答えを告げた。
「お姉さんが、ベルナデット叔母さんが作ったのよ」
「壊れちゃったの!」
ベルナデットが悔しそうに付け加えた。ついつい皿のクッキーとベルナデットを交互に見てしまう。
「ゲルマンの方の降誕祭のお菓子だって聞いたから、レープクーヘンを作ろうとしたんだけど、形が歪になっちゃった。大きく伸ばして、そのまま天板に入れるのは大変だったのに、もう嫌になっちゃう」
ベルナデットはぐるりと瞳を回した。出会ったばかりの頃に降誕祭に付き物の菓子の話をして、レープクーヘンでお菓子の家を作ると言っていたのを覚えていたのか!
「失敗したからって捨てる訳にもいかないし、味見をしてみたら美味しいから、皆でいただきましょうって決めたんです」
子どものように感情を露わにする妹に、マリー゠アンヌは苦笑気味だ。




