四
昴の面々には、巴里で流行りのクラヴァットを選んだ。ディナスもアンドレーアスも身なりに気を遣うのも仕事だから、もらって困りはしないだろう。家政婦たちには刺繍の入ったハンカチーフ。アグラーヤには――送り先が家庭教師をしているローンフェルト氏の屋敷となるから――、子どもたちとも一緒に楽しめるよう、装丁の美しい本を贈ることにした。事前に書いておいた手紙を一緒に箱に入れてもらい、配達の依頼をした。これで用件のほとんどは終了だ。
広い百貨店の階を上り下り、混み合った売り場を動き回って、周囲の騒がしさに声が通らないのを何回も確認させて、自分が降誕祭の飾り物になったように買い物荷物をぶら下げて、配達夫みたいだ。外商を通さず、自ら店に出向く手軽で簡単な遣り取りで済むのだから、恰好が付かなくても仕方ない。
『ティユル』では、今日中に顧客の注文の品を仕上げようとてんてこ舞いしているはず。贈り物やパーティーにと、明日には衣装を渡すばかりにしなくてはならない。針と糸を操って、色鮮やかな絹地や毛織物にレースやリボン、刺繍で飾り、工夫を凝らした女性の外装を作り上げる。どこもかしこも祭日の行事に合わせて動いている。気が急くが、ベルナデットたちの邪魔をしてはならない。その分浮き立つ心は明日、明後日に落ち着いて楽しめるだろう。血のつながりのある、そして心寄せ合う家族との降誕祭。俺にとって滅多に体験できない時間となるだろう。
日付が変わるのが待ち遠しかった。寝付けない、時計の針の進み方が気になって落ち着かない気分など、この歳になってあるとは思わなかった。
二十四日はいつもと変わらぬ冬の日で、いつもとは違う日。ゆっくりと朝を過し、身の回りを片付ける。整頓を終えたら、今日持参する贈り物に足りない物はないかと何度も確認した。
手荷物をしっかりと携えて、『ティユル』の閉店時間に合わせて、出掛けた。今日は午後早い時間に閉めるから、陽の光の下でベルナデットの姿を見られる。
シャン゠ゼリゼ大通りやコリゼ通りは贈り物の包みを持った人たち、食べ物の匂いを漂わせながらせかせかと進む者たちがいる。到着を待ち侘びる人がいる。きっと弾ける笑顔で迎えられるのだろう。
店の窓から客がいないのを見て、俺はそのまま正面の入り口に立った。
「こんにちは、いらっしゃい!」
扉が開かれ、明るい声が掛けられた。
「こんにちは、扉を開けてもらって有難う」
出迎えてくれたルイーズに礼を言った。ルイーズは飛びつくようにして、俺に頬を寄せた。外を歩いた俺の顔は冷たかったらしく、ルイーズはわっとすぐに顔を離した。
「お兄さん、寒かったでしょう」
「そりゃあ十二月だからね」
店にはマリー゠アンヌとベルナデット、マリー゠フランソワーズもいた。
「ご機嫌よう、皆様方」
「こんにちは、オスカー」
挨拶と抱擁を繰り返し、やっとベルナデットの頬に接吻できた。
「仕立てた品物はお客に全部渡し終わったのか?」
「ええ、無事に済みました。特に注文の急な変更やお直しもなくてよかったわ」
「お店はお仕舞い、片付けをしているところよ」
「俺も手伝おう」
「いいえ、人がたくさんいるとかえって身動き取れないから、上に行っていてちょうだいな」
「そうね、上でお茶でも飲んで待っていて、すぐに終わりますから」
もう少し遅れて着いた方がよかったか? 邪魔にされているのではないのだろうが、どこでも後始末は大切だ。




