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君影草  作者: 惠美子
第六章 嵐の前
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 オーストリアもプロイセンもドイツ連邦の諸邦を味方に付けようと、外交や連邦議会を通して、それぞれの主張、相手の陰険姑息さを訴えてきている。

「開戦は目に見えている。ただの駆け引きだろう」

「宣戦布告するまでの形式だ」

「何処でどのように戦うか、はっきりしないだろうか」

「お偉いさんは合同演習を約束通り執り行うと言ってるらしいぜ」

「オーストリアもプロイセンもご勝手に、と知らぬ顔を通すつもりか?」

「そんな真似ができるのか?」

 いつ出動してもよいようにと士気を落とさず、武器の手入れをしている身にもなってみろ。緊張感は否が応にも高まり、無駄口を叩いて気晴らしをしてなくては爆発しそうだ。

 ディナスやアンドレーアスから一度昴(プレヤデン)に戻ってこれないのかと手紙が来る。首都でもこの時世の論調に、俺の身を案じてくれているらしい。さて、自邸に行ってみて何か役立つ情報が仕入れられるのならその価値があるが、ただの行ったり来たりで終わるのなら不安を煽られるだけうっとうしい、苛々するだろうから行かない方がいいだろう。有事の際の処し方はディナスに指示しており、充分心得ているはずだし、俺は遺言状を書いている。リザは年齢相応の相手と再婚して平穏に暮らしているし、アグラーヤもいざとなれば亡命するくらいの行動力と資金はある。シュレーダーの消息が不明なのがいささかの心残りだが、身辺身軽で後顧の憂いはない。

 ブルックがアグネスと何もないのも、未練が残らなくていいだろう。

 勝手なことをと言われそうだが、根が真面目なだけに、アグネスから良い返事をもらった途端に出兵となったら悩みそうだ。

 祖父や父に商売に才があったが、俺は関心を払ってこなかった。どうすれば儲かるかの基本や税金の対策などは、自分の受け継いだ財産を守る程度の知識しかない。父のアレティン商会はアンドレーアスやほかの出資者に委託する形になっていて、俺は商売やブルジョワ層の諸権利には疎い。

 アンドレーアスがプロイセン寄りの考えを持つのは、プロイセンがドイツ関税同盟の主導権を持っているからだ。

 そしてまた四月上旬、プロイセン――いや、ビスマルク――は、中産階級や自由主義者が喜ぶような、驚愕すべき提案をドイツ連邦議会に提出した。

 普通・直接・平等の選挙によるドイツ国民議会の創設である。しかし、これは連邦議会で否決された。郷紳(ユンカー)出身でプロイセン国王からの信任篤いビスマルク伯爵が自由主義者でないのは周知の事実だ。世論操作とオーストリアを悪役に回そうとする意図が隠れている。

 (プレヤデン)からのニュースは様々だが、一番のんびりとしたものは軍大臣からの通知だろう。今年の六月、我がカレンブルク王国とハノーファー王国は予定通りに合同演習を行う、変更無し、と通知された。

 今回予期される戦争はプロイセンとオーストリアのもの、と決め込んだのだろう。出撃しないに越したことはない。緊張をほどいてよいものだろうか、胸中に燻るものがある。それがただ暴れてみたいと逸るものなのか、不安なのか、俺にも判断が付かない。

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