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君影草  作者: 惠美子
第六章 嵐の前
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 ハノーファー王国との合同演習は夏季に行うと計画されていたのが流れたので、来年になるそうだ。それまで演習は自国の部隊で行うしかない。移動を伴う大規模な演習となればなかなか体験できないものだから、延期となり、皆一種の落胆を隠せない。費用が掛かる、怪我人・死人が出たらどうする、は俺たちの心配ではない。二つの国で行うので、場所をどこにするか、どこまでの将兵を参加させるか、主君たちを臨席させるのか、その場合に付き添う貴族やもてなしを決めるのも俺たちではない。

 主君たちが親しい仲といっても、一国の国王同士対等でなくてはならず、宮廷内で有職故実を引っ張り出して、典礼がどうの先例ではこうだっただの、そちらの準備で時間と金を食っているのだろう。効率の悪い。

 効率が悪いといえば、ブルックだ。いまだに赤毛娘をモノにできていないそうだ。半年以上掛かっているが、話をはぐらかされたり、とぼけられたりで、嫌われてはいないようだがどの程度好意を持たれているのか推量できない状態らしい。ミューラーやシュミットあたりが力で押してしまえとからかっているが、ブルックはそんな性質(たち)の男ではない。まずは心通じ合う仲になりたいと言っているから、熱心に口説いているつもりなのだろう。しかし、アグネスはやはり貴様に気があるようだとか、軍人は嫌いなんだろうかとか、繰り返し聞かされる身にもなって欲しい。いい加減飽きてきて、軍人は身辺身軽なのが一番いいと毎回答えているのに、ブルックには聞こえていない。いい奴なんだがな。

 短い夏が終われば、一瞬の秋、そして冬。

 1866年一月、ホルシュタインのアルトナで政治集会が開かれた。内容はホルシュタインとシュレスヴィヒの両公国の分割統治反対に決まっている。問題はオーストリア帝国が統治するホルシュタイン側で集会が行われたことだ。

 ドイツ連邦議会に席を置きながらプロイセンは平気で調和を乱しており、大ドイツの盟主であると自負しているオーストリア帝国は各諸邦の自主性を望む声を無碍にできない。プロイセンは厚顔にも、ホルシュタインのアルトナで分割統治の反対とアウグステンブルク公爵の統治を呼び掛ける政治集会を許可したオーストリアがガスタイン条約に違反していると非難した。言い掛かりに近い。

 その上、ホルシュタインの統治権をプロイセンに譲れと言い出したのだ。

 手袋を投げつけるような行為だろう。

 にわかにプロイセンとオーストリア間の緊張は高まった。戦火を交えるのはそう遠くない未来になる。

 我が主君がどちらに付くか、付かないのか。いずれにしても、俺たちは命ぜられたままに戦地に赴き、命を的に俺たちは働く。

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