七
荷物を積み、辻馬車でリュクサンブール公園へ向かった。到着して女性陣を馬車から降ろすと、ルイーズは踊るように軽やかだ。家族が日傘を差し、俺たちが荷物を降ろして持ち直しているのがもどかしそうだ。
「そんなに慌てる必要ないでしょう?」
「急いでなんかいないわ」
くるくるとルイーズが回ってみせる。大勢で出掛けたこと自体が楽しいらしい。彫刻に挨拶し、秋の花を探して、自然と駆け足で進んでいく。
困った子ね、といった風にマリー゠アンヌが苦笑気味だ。
「ルイーズはルイーズで、わたしたちが付いてこなかったら心配して戻ってくるでしょうから、ゆっくり行きましょう」
軽い籠は持つとマリー゠アンヌとベルナデットは手を差し出したが、大の男が二人いて、荷物を持たせられるかと、断った。
「あら、腕が痛くなっても知らないわよ」
澄まして言ってくれたが、俺とアンドレーアスが荷物を渡さないだろうと決め込んで、ベルナデットは日傘の持ち手をもてあそんでいた。礼儀と見栄だが、こんな遣り取りは悪くない。
「言葉だけでも嬉しいもんだ」
アンドレーアスは、重たそうに籠を運ぶ。いや、俺の方が茶道具とお湯の入った籠を持っているんだ。案外アンドレーアスは文弱だ。
リュクサンブール公園の英国式庭園になっている場所まで行き、そこで籠を置いて、敷物を拡げた。
大きく息を吐いて、アンドレーアスは腰を下ろした。
「持参した物を公園で食べるなんてと思ったが、こうして来てみると気分がいい」
「提案してみた甲斐がある」
「家族全員で出掛けるなんて滅多にないから、公園だって充分楽しいです」
マリー゠フランソワーズは心からそう感じていてくれるのだろう。晴れやかで、こちらも心が浮き立つようだ。
今度は女性陣が籠から中身を出して、並べてくれる。ひらひらと気ままに歩き回っていたルイーズも皆が場所を定めたのを見て、戻ってきて母を手伝った。
「結構まだ熱いから気を付けて」
いつもと変わった位置にある茶碗に、危なげな手付きで紅茶が注がれた。パンや料理が行き渡り、簡単な祈りを捧げて昼食だ。
「美味しい!」
「俺の知っている店に頼んだんだ」
ルイーズの可愛らしい感想にアンドレーアスが説明した。
「ムシュウ・ディナスは巴里の色んなお店を知っているんですか?」
「どうかなあ、マドモワゼルほどじゃないと思うよ。なにしろ俺は仕事で長く滞在しているだけだから」
「わたしはそんなにあちこち行って食べたことありません。この前、お兄さんにグランドホテルのカフェに連れて行ってもらったくらい」
アンドレーアスはルイーズが俺を「お兄さん」と呼ぶのが可笑しくてたまらないようだ。
「ははあ、それはいい体験だったね。オスカーは気前がいい。俺も綺麗なご婦人とグランドホテルやブールヴァールにあるレストランで食事をしてみたい」
綺麗な女性を気軽に誘うなら俺より得意そうなのに、何を言っているのやら。まあ、ラ・ヴァリエール家の皆さんの前だ、ここはからかわらないでおこう。
「景色を眺めながら、外気にあたっているのは本当に気分がいい。いただくお茶もお食事も格別」
満足気にベルナデットが微笑み、マリー゠アンヌが相槌を打った。
「まだ始まったところです、もっと召し上がってください」
穏やかな日差しの下、寛ぎ、安らぎを感じる。




