六
「十四、十五は平日だけど、予約は入っていないし、催し事があるのなら、飛び込みのお客様もいないでしょうから、早目に店を閉めても差し支えないだろうと、アンヌと母が言っていたわ。お針子もそんな時は遊びに行きたくて仕事にならないでしょうしね」
ベルナデットは誘いを受けて悪い気ではないらしい。
「伯母上も行きたいと言うだろうか?」
「さあ? こればかりは本人に訊いてみないと判らない。人混みがひどいようなら行かないと言うかも知れないし、連れていってくれと大喜びで返事をしてくるかも知れない」
そうなればマリー゠アンヌやルイーズもとなるだろうから、アンドレーアスにも声を掛けよう。俺一人では四人の女性の面倒は見きれない。
「伯母上や姉上に知らない振りはできない。皆で行きたいと希望されれば、こちらもそれに合わせて準備する」
ベルナデットは今まで曇りがちの胸の内が晴れ切ったように、澄み切った青空の輝きを瞳に宿らせ、微笑を浮かべた。
「そうでなければ、あなたと二人で出掛けられる」
もしかしたら、オスカーは皆にも声を掛けるように言っているけれど、俺と自分だけで出掛けたいのだから遠慮して欲しいと、彼の女は言葉の端々に付け加えて説明するのではなかろうか。家族への気遣いをしつつも女性らしい意思の通し方をしそうだ。俺はナポレオン1世の誕生祭に出掛けようと提案した、それ以上の態度は示さず、口もはさむまい。家族への話の持ち掛け方はベルナデットに一任しよう。余計な口添えをして、彼の女から睨まれたり、マリー゠アンヌたちから恨まれたりしたら、堪らない。
何よりベルナデットの胸を塞ぐ重しが転がり、消え去っているのなら俺はそれが一番。思い出させてはいけない。
ワクワクしてきたと、ベルナデットは立ち上がり、俺も合わせて席を立った。両手を伸ばして、俺の手を握る。
「どうする? 直ぐに伯母上にお伺いを立てに行くのか?」
「待って、もう少し二人きりでいて」
子どものようにじっとしていられないのが可笑しい。
「慌てなくても俺は逃げない。それともここでダンスでも踊る?」
「踊るには狭いわね。もう一度座り直しましょう」
同じ場に座り、向き合った。
「博覧会のように入場料を払って会場に入るのではなく、街中で見られるからいいわ」
「テュイルリー宮辺りから凱旋門まで灯を照らして飾るらしい」
ここの近くだから尚更楽しみだと、ベルナデットは言った。
「この店から出てシャン゠ゼリゼ大通りに出て見物できるから、皆で見て回り、それから二人で出掛けてもいいかも知れない」
「ああ、そうね。それでもいいかも知れない」
と彼の女は肯いた。
「大通りの広い歩道といっても催し事となると混み合うから、人数が多いとはぐれやすくなってしまうのが心配」
全く案じていない言い方だ。ああ、歩調が違うと迷子になると悪いから、別行動がいいと家族に言っておこうと考えているな。
しなやかというか、強かな女性の思考は苦手だが、ベルナデットが無邪気に思い付いているのを察するのは、意外と不愉快ではない。




