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君影草  作者: 惠美子
第三十章 男心は一つ所に落ち着かぬ
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 ゴルツ大使はほかにも今月の予定を説明してくれた。大使自身のではないが、こちらも頭に入れておかなければならない重要な動きだ。

「ナポレオン3世と皇妃がオーストリア皇帝に弔問に出掛ける日取りが知らされた。今月の十八日、ザルツブルクでと決まった」

 オーストリア皇帝の弟でメキシコ皇帝だったマクシミリアンが遠いメキシコの地で銃殺刑に処されて、まだ遺骸はヨーロッパに到着していない。しかし、マクシミリアン大公に新天地で皇帝になれと唆したのはナポレオン3世とウージェニー皇妃だ。大西洋に隔てられていない者たちが知らぬ顔をして済ませられない。

「フランス皇帝がオーストリア側に行くのは当然です」

「気紛れなオーストリア皇妃もこの日ばかりは神妙に夫と二人で、出迎えるだろう。ザルツブルク市民は肖像画や写真なしで、二人の皇帝、二人の皇妃を見比べられる」

 遊びに行くのではないのだから、派手な行列で行進しないだろうし、市民と一緒に集う場に出はしまい。それでもどちらの皇帝も恋愛で結婚したと伝えられているから、皇妃二人の容姿は興味を惹くだろう。

 本家のバイエルン国王ルードヴィヒ2世の美男振りから、オーストリア皇妃エリザベートのヨーロッパ随一の美女の評判は嘘ではないと思う。乗馬の趣味が高じて、体力づくりと減量を心掛けているというから、元からの長身に加えて細身。

 ウージェニー皇妃はやや丸顔に垂れ目で、やや衰えたりとはいえ、妃を探すナポレオン3世が火遊びで済まさずに結婚した麗人。自らの姿態の長所を知り、それを活かす意匠を身に纏っている。弔問では喪服姿になるしかないが、優美さを演出できるように工夫を凝らすだろう。

「お互い顔も見たくないと腹の中で毒づいていようと、逃れられない儀式だ」

「総参謀本部から小官に何も命じられていませんから、そこは本部とオーストラリア部がザルツブルクでどうするか決めているのでしょう」

「そのようだ。

 ザルツブルクへの出立があるから、十四日のナポレオン1世の誕生日前夜の祝祭に出られないが、それは万国博覧会の出し物の一つでもあるから、中止せずに行われる」

 金と人の手間暇掛かっているのを、急に取りやめできないのは、万国博覧会の褒章授与式と同じか。

「小官は大使のお供で観劇し、巴里市内の調査の続行で、任務の変更無しですね」

「ああ、よろしく頼む。なにしろ、グイドのお相手は貴官を気に入っている」

 少しも有難くない仰せだ。ラ・パイーヴァとあの小娘。できることなら護衛として後ろで起立していたい。表面だけでも和やかに談笑していなくてはならない。それとも居眠りしていようか。

 いや、そんな姿を見咎められたら足を蹴飛ばされる。仕事でもオペラ座に行くのだから、孔雀の羽を付けた烏と嗤われないよう、お行儀よくしていよう。育ちのよろしい方々に囲まれたら、背伸びしたところで敵わない。小娘の機嫌を損なわない程度に大人しくしているのが無難だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オスカーが二枚目なのに内心では結構、言いたい放題なのが面白いです!ゴルツさんもキャラが濃いですね。この時代の政治文化のあれこれが解ってとっても興味深く拝読しています。個人的にはベルナデット…
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