四
「もう一度言ってみろ」
「何度だって言ってやる。気取った顔をしているなよ」
シュミットは立ち上がった。
「貴様の澄ました顔が気に入らないんだよ、アレティン」
シュミットまでがテーブルを両手で叩いた。
「気に入られなくて大いに結構だ」
同僚たちは卓上を気にする者、俺たちの成り行きを気にする者、半ばしていた。
俺は座ったまま、目を眇めてシュミットを見た。明らかにシュミットは激していた。
「その目はなんだ!」
まあまあとミューラーたちがシュミットをなだめようとする。
「俺の言い方が悪かったようだ。済まないな、座れよ、シュミット」
「それが謝っている態度か」
「貴様が先に癇に障る言葉を吐いたのに謝った。それでも駄目なのか」
決まり悪そうにしているが、シュミットは引き下がらない。
「挑発したのは貴様だろう」
「だから済まないと言ったじゃないか」
「それで済むと思っているのか?」
たかだか黒ビール一杯で酔ったのではあるまいな。もう止めようとミューラーやハーバー大尉がシュミットに声を掛けている。こちらは一度謝罪しているのだから、これ以上為すことはない。ブルックがもう少し愛想よくしてやれよと囁くが、何故下手に出る必要がある。
「ハーバー大尉、小官はまだ謝罪を要するほど、シュミット中尉を侮辱したでしょうか」
なだめ役に回っているハーバー大尉に言ってみた。
「いや、アレティン中尉は謝罪している。許すか許さないかはシュミット中尉だ。
お互い酒の席の上のことだ。もう止めて、酒宴を続けよう」
「いいや!」
シュミットは聞き入れなかった。
「この澄ました顔を叩きのめさなくちゃ、気が済まん。表へ出ろ!」
掴みかかりそうになるのを周りが必死に止める。元からシュミットは俺が気に入らなかったのだろう。言葉の行き違いでここまでやらかしてくれるとは、有難くて涙が出そうだ。
さっと手を出したのはブルックとヨハンセンだった。
「外は暗いし、寒いんだぜ。酔いが醒めるどころじゃない」
「そうだよ、泥だらけになるだけだ。止めて、飲み比べでもした方がましだろう」
それでもシュミットは矛先を収めなかった。
「殴り合いが駄目なら、決闘だ」
おお、と先程とは違った歓声が上がった。
「決闘だ。アレティン中尉、逃げはしまいな」
ハーバー大尉が溜息を吐いた。ここまでシュミットが言いきったのから止められはしない。俺も受けなければこの軍団にいられない。俺は立ち上がり、真正面にシュミットに対した。
「受けよう。日時と場所は?」
「明日の朝九時に、軍団の宿営地のはずれの林だ」
「よかろう、武器は?」
「受けた側の貴様が選べ」
「では短銃だ」
「よし」
「銃弾の数は? 一発か、それとも三発か」
「一発だ。一発で貴様を仕留めてやる」
俺はテーブルをぐるりと見廻した。
「ここにいるみなが決闘の立会人と証人になってくれるか」
おお! 、とみなが承諾した。
要するに我々は退屈していた。命を賭けた退屈しのぎを行うのだ。




