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君影草  作者: 惠美子
第五章 決闘
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「もう一度言ってみろ」

「何度だって言ってやる。気取った顔をしているなよ」

 シュミットは立ち上がった。

「貴様の澄ました顔が気に入らないんだよ、アレティン」

 シュミットまでがテーブルを両手で叩いた。

「気に入られなくて大いに結構だ」

 同僚たちは卓上を気にする者、俺たちの成り行きを気にする者、半ばしていた。

 俺は座ったまま、目を眇めてシュミットを見た。明らかにシュミットは激していた。

「その目はなんだ!」

 まあまあとミューラーたちがシュミットをなだめようとする。

「俺の言い方が悪かったようだ。済まないな、座れよ、シュミット」

「それが謝っている態度か」

「貴様が先に癇に障る言葉を吐いたのに謝った。それでも駄目なのか」

 決まり悪そうにしているが、シュミットは引き下がらない。

「挑発したのは貴様だろう」

「だから済まないと言ったじゃないか」

「それで済むと思っているのか?」

 たかだか黒ビール一杯で酔ったのではあるまいな。もう止めようとミューラーやハーバー大尉がシュミットに声を掛けている。こちらは一度謝罪しているのだから、これ以上為すことはない。ブルックがもう少し愛想よくしてやれよと囁くが、何故下手に出る必要がある。

「ハーバー大尉、小官はまだ謝罪を要するほど、シュミット中尉を侮辱したでしょうか」

 なだめ役に回っているハーバー大尉に言ってみた。

「いや、アレティン中尉は謝罪している。許すか許さないかはシュミット中尉だ。

 お互い酒の席の上のことだ。もう止めて、酒宴を続けよう」

「いいや!」

 シュミットは聞き入れなかった。

「この澄ました顔を叩きのめさなくちゃ、気が済まん。表へ出ろ!」

 掴みかかりそうになるのを周りが必死に止める。元からシュミットは俺が気に入らなかったのだろう。言葉の行き違いでここまでやらかしてくれるとは、有難くて涙が出そうだ。

 さっと手を出したのはブルックとヨハンセンだった。

「外は暗いし、寒いんだぜ。酔いが醒めるどころじゃない」

「そうだよ、泥だらけになるだけだ。止めて、飲み比べでもした方がましだろう」

 それでもシュミットは矛先を収めなかった。

「殴り合いが駄目なら、決闘だ」

 おお、と先程とは違った歓声が上がった。

「決闘だ。アレティン中尉、逃げはしまいな」

 ハーバー大尉が溜息を吐いた。ここまでシュミットが言いきったのから止められはしない。俺も受けなければこの軍団にいられない。俺は立ち上がり、真正面にシュミットに対した。

「受けよう。日時と場所は?」

「明日の朝九時に、軍団の宿営地のはずれの林だ」

「よかろう、武器は?」

「受けた側の貴様が選べ」

「では短銃(ピストル)だ」

「よし」

「銃弾の数は? 一発か、それとも三発か」

「一発だ。一発で貴様を仕留めてやる」

 俺はテーブルをぐるりと見廻した。

「ここにいるみなが決闘の立会人と証人になってくれるか」

 おお! 、とみなが承諾した。

 要するに我々は退屈していた。命を賭けた退屈しのぎを行うのだ。

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