十
俺にとって当然と思える選択が、ベルナデットにとって分不相応な贅沢となる。
俺は山出し娘にきらびやかな贈り物をして舞い上がらせてモノにしようと企む好色な金満家ではない。誘ったのが俺なのだし、懐の余裕があるのも俺なのだろうから、俺が負担するのは義務だ。料金を折半したり、女性に奢られたりするのは自尊心が許さない。代々続く本物の貴族やロスチャイルド家に比べるにはささやか過ぎて情けなくなるが、成り上がりといえども、アレティン家は食うや食わずの庶民とは違う。父は伯爵令嬢の母を――金に物言わせての結果だが――、妻にした。母の実家のリンデンバウム伯爵家を通して、貴族の振る舞いを教え込まれた。
だからこそ紳士らしく、騎士爵を持つ者に相応しくありたい。決して驕らず、人を見下さず。傲慢は罪であり、思い上がりは人を醜くさせる。
ベルナデットとは対等の間柄でいたい。いや、そうあらなくてはならない。近しい血を引く相手であり、何よりも一目見た時から心に深く焼き付き、忘れかねていた女性なのだから。
「あなたががっかりしないかと気になっていた」
「あなたと一緒に出掛けるのに不足はありません。むしろわたしが緊張しています」
ベルナデットが左手を胸に当てた。
「緊張する必要は無いと思うが?」
「緊張しているのはわたしの勝手です」
と唇を尖らせた。従兄妹同士と判ってからも、なお親しくなりたいと想って胸を弾ませてくれているのなら、諸手を上げて喜びたい。
「前にも申し込んだ通り、婦人同伴での席に招かれたらとお願いしているのだから、仕事に関係ない外出で、上がらないで欲しい。
そんな様子では心配で、宴席に誘えなくなる」
意地悪ね、とベルナデットは笑って、組んでいる俺の左腕をつねった。大袈裟に痛がって見せながら、俺も笑った。
「貴婦人方を拝見していますから、真似事くらいはできます。自信はあります。
ただね、こうして手を引いてくださる男性が誰かで、気分って違ってくる、それが判らないなんて、オスカーはわたしを何だと思っているのかしら?」
おや、強く出てきた。
「さあ? 自慢の従妹かな?」
ベルナデットの視線がきつくなった。チラリと俺を見て、ふいと他所を向いた。つんと気取っていながら、気を持たせる仕草が巴里娘らしい。
「俺が目にしてきた中で、一番魅力的な女性だ」
俺の答えに満足したのかどうか、彼の女は視線を俺に戻した。左腕に預けられている彼の女の右手に右手を重ねた。
「この手を離したくない。あなたをずっとこの手に繋ぎとめておきたい」
彼の女は俺の顔色を読もうと、嘘偽りがないかと、真直ぐに眼差しを向けてきた。俺はその無言の問を受け止める。胸を開くことができれば、心を透かし見られれば、互いにこんな遣り取りをしなくて済むものを。しかし、人は言葉を尽くし、態度で示さねば信じてもらえないし、信じられない。
これは理屈や条件付けで変わらない。
青い瞳は俺を見詰め続け、俺も彼の女を見詰め続けた。