七
眼差しと手を絡ませ、しなやかな体をこの腕で支えながら、軽やかな音律に合わせて舞い、息は弾む。目の前の女性一人しか映らず、厄介事は脳内から消え去っている。足並みを揃えて、進み、下がって、くるりと回る。
終わって一礼すると、二人きりの世界を謳歌していたマダム・ド・デュフォールは、フランス宮廷の貴婦人に戻った。男心をくすぐする媚態をちらつかせながら、取り澄ました気位の高さを鎧にしている。
「今晩はまだ仕事中ですから、これで失礼いたしましょう。
ご機嫌よろしう、アレティン大尉」
俺には華やかで優雅な貴婦人の姿を崩さないが、上官とは、また仕事仲間と会う時は、どんな様子になるのだろう。冷酷なのか、もっと婀娜めいた表情するのか、想像してみたくなる。俺にはきっと見せないのだろうと、決して後ろ側が覗きこめない位置に置かれた彫刻の美女が恨めしい。
「今晩お会いできて嬉しかったです。是非またお会いしたい。
ご機嫌よろしう、マダム・ド・デュフォール」
もう一度礼をして、お互い違う方向に進む。俺はゴルツ大使を目で捜した。
見付けてみると、大使は大使でフランス皇妃の取り巻きの一人らしい貴婦人と談笑中だ。今側に行く必要はない。俺は今回護衛で付いて来ているのではないし、婦人と語らっている最中に復命しに行く莫迦はしない。
視線を移せば、レヴァンドフスカは父親の隣で、父親やそのお仲間たちの話を黙って聞いている。少しは退屈を晴らしてやろうと、何故か慈善の気持ちが湧いた。俺はレヴァンドフスキ伯爵に歩み寄った。俺に気付いた伯爵に、丁寧に申し出た。
「失礼いたします、レヴァンドフスキ伯爵。お嬢様に一曲お相手を申し込んでもよろしいでしょうか?」
そこで伯爵は自分たちが話している横でじっと大人しく我慢している娘にやっと気付いたかのようだった。娘が宴の席で親の近くで欠伸を噛み殺しているのでは、かえって人目に悪く映るし、如何にも男性の目を引かないようで情けないと瞬く間に計算したと見えて、反対しなかった。
「どうぞ、ムシュウ・アレティン。娘の相手をしてやってください」
「有難うございます、伯爵。ではマドモワゼル・レヴァンドフスカ、お手を取らせていただけますか?」
小娘は疑わし気に俺を上目遣いで見たが、ここから離れたい気持ちの方が大きかったのだろう。
「お父様がお許しくださったのですから」
父の言い付けに従うだからといったふうに俺の右手に手を重ねてきた。いつぞや買ってやった手袋は、やはり誂えの品ではないし、夜会向けではないから使えない。身に付けてみて贈り主を喜ばせる物ではないのが残念だ。
俺に手を引かれ、多くが舞踏に参加している場所まで進みながら、レヴァンドフスカは尋ねきた。
「どうした風の吹き回しですか?」
「俺も気紛れを起こすんだ」
「わたしは気紛れのお相手なのね。確かにここにはグランドホテルでお会いした従妹さんや子爵令嬢がいらしていないですものね。
まあいいわ。その分わたしが貴方を独占できるんだわ」
一人前の口を聞く。




