七
「それではルイーズを真ん中にして、二人で手をつないで外を歩きましょうか?」
親子にしては変な図であり、お嬢さんのお守りにも見えない。自分で言って笑ってしまった。ルイーズが怒ったように視線を向けてきた。このままだと小父さん呼ばわりされそうだ。
「そんなに一緒に出掛けたいのかい、お嬢さん?」
「友だちと出掛ける場所は決まっているし、家族と出掛けるにしたって今は万博に色んな国々の服の意匠を勉強しに行くようなものなんですもの。ちょっと変わった大人っぽい所にも行ってみたいわ」
「ベルナデット、どうしたらいいだろうか? 可愛い妹のお願いを聴くべきだろうか?」
マリー゠フランソワーズからの一言があったから、無視せず、検討する振りもしなければならない。女性ばかりの家族は手間が掛かる。軍団や大使のお付きなら、必要な人員は何名で、誰がいいと決められ、それに従うが、女性の気ままな外出には何もかも時間を食う。
「ルイーズはどんな格好でグランドホテルに入ろうというの? 普段着で入れない場所よ。公園なら帽子を被ればいいだけ」
さて、俺はきちんとした姿だろうか。伯母の家への訪問とはいえ、こちらの分相応に誂えた服できちんと上着と帽子を当然身に付けてきた。ブールヴァール周辺を歩いて不似合と嘲笑されはしないだろう。
「白とピンクを合わせた服があったでしょう? あれとリボンで髪をまとめたらなんとかな上品に見えないかしら? ベルナデットも一緒に着替えてきて、それで出掛ければ?
どう思いますか、オスカー?」
マリー゠フランソワーズからこう言われてしまうと、反対しづらい。ベルナデットも母から言われて、渋い顔をしつつも、嫌だと言えないようだ。
「どうしてもと伯母上が仰せなら、今回だけ。次はベルナデット一人をお誘いするのをお許しください」
ルイーズは手を叩いて喜んだ。
「我が儘は今回だけよ」
マリー゠アンヌが娘をたしなめた。
「今後はベルナデットとオスカーの邪魔をしないでね」
母親らしくマリー゠アンヌは俺に言ってきた。
「わたしは今日の内に済ましておきたい用事があるので失礼します。申し訳ないですが、娘をお願いします。はしたない振る舞いをしたら遠慮なく叱ってやってください」
「いえ、そのように言われてもどう接したらいいか困ります」
「妹でいいんです」
俺は一人っ子できょうだいがいない。妹と言われてもどう扱ったらいいものか。まあ、ベルナデットがいるから、そこはきちんと監督してくれるだろう。
「割り込んで来たのはあなたなんだから覚悟しておきなさい。お行儀が悪かったらシャプロンがビシビシ躾けますからね」
叔母と姪の視線がぶつかり、互いに思い切り怖い表情をしてみせた。お道化たふうが微笑ましいが、これから着替えて、身繕いや化粧がはじまる。時間が飛ぶ。
「ご用事があるのにこちらこそ申し訳ない」
マリー゠アンヌの様子からして、疲れているのできちんと休息したいのが本音のようだ。うるさい家族は不在の方が気が楽だろう。もう少し我慢してもらうほかない。
ベルナデットとルイーズは準備をしに、自室に下がっていった。無理だろうが、手早く願いたい。
「折角の休日にお手間を掛けさせて、かえって申し訳ない。ルイーズとベルナデットはきちんと私が見ておりますから、心配なさらないでください」
梯子を持ち出し、屋根の猫を助けて、今度は社交場を覗いてみたいとお転婆で、生命力の塊のような娘。ベルナデットの姪。俺にとっても姪っ子みたいな存在だ。
「ルイーズをあなたにお預けします」
この年齢になると予定外の行動は億劫になるのです、それに自分のあれくらいの時分を思い出すと親はうっとうしいものです、だからわたしは同行しません、とマリー゠アンヌは説明した。
「親の勝手なのですが、あの娘に信頼できる年長の男性と話をする機会を与えたいのです」




