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君影草  作者: 惠美子
第四章 ドイツ連邦の中で
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 カレンブルク王国はハノーファー王国の東側にあり、古くから王家は縁戚関係にある。18世紀初め、イギリスでステュアート家のアン女王が後嗣のないまま没したために、遠縁のハノーファー王家にイギリスの王冠が回ってきた。ハノーファー王は同時にイギリスの国王となり、それが今世紀の前半まで続いた。しかし、イギリスとハノーファーでは王位継承順が違っていた。ハノーファー王国はイギリスとは違い、サリカ法典に従い、女性に王位継承権がない。ハノーファー王国のヴィルヘルム王――イギリスではウィリアム四世となるらしい――が没すると、王の姪のヴィクトリアが女王としてイギリスの王座に着いた。ハノーファー王国では、ヴィルヘルム王の弟、エルンスト・アウグストが王となり、現在の国王はその息ゲオルク5世である。

 我が国の王と同名であり、王はハノーファー国王と親しい。王妃はハノーファー王家の分家筋の公女であるアウグスタ。

 欧州では王族間での政略結婚が古くから行われ、王族が複数の国家の王位継承権を身に帯びているのは珍しくない。

 ユートラント半島の南に位置するシュレスヴィヒとホルシュタインの二つの公国は、半島の北のデンマーク王国と同君連合の関係であった。

 ところが1863年、デンマーク王国は両公国を強制的に併合しようと動き出した。両公国にはドイツ人が居住し、ホルシュタイン公国はドイツ連邦に属している。アウグステンブルク公爵フリードリヒはデンマークの動きに抗議し、両公国の住民はアウグステンブルク公爵フリードリヒの治めるべき領地であると、ドイツ連邦議会に援助を求めた。もともとこの二つの公国は帰属問題でもめている地域だ。デンマークに属するべきだ、いや独立した国になるべきだ、と争いが繰り返されてきた。

 新たに登極したデンマーク国王クリスティアン9世は傍系の出身であり、アウグステンブルク公爵フリードリヒもデンマーク王家の血を引いている。しかし、それで仲良くしようとはならず、却ってどちらの血筋がより正統で王位に相応しいかと闘争心をあおられ、ユートラント半島の統治権を争う結果となった。当然我がドイツ連邦議会はドイツ人の居住する土地がデンマークに併合されるのを黙って見ている訳にはいかない。ドイツ連邦議会はクリスティアン9世を非難し、アウグステンブルク公フリードリヒ支持した。

 その年の十二月、カレンブルクはハノーファー、ザクセンとともに両公国に出動した。勿論全軍が出払う訳ではなく、俺の属している南部の軍団は居残って、首都昴(プレヤデン)や国境に分散して守備を固めた。ピーターゼンやシュルツはホルシュタインに向かった。

「いいのか悪いのか、判らない」

 同僚のブルック中尉と言い合った。折角威儀を整えての行軍をしてきたのに、守備に回っているのが不満である。どうせならホルシュタイン公国まで出向きたかった。

 参謀役のリース大佐も国外に出て、他国の軍備を見たかったようだ。

「今のところはドイツ連邦議会の一部だけが軍を出して、プロイセンやオーストリアが動き出していない。彼等がどう出るのか、どんな装備で、どんな作戦を立案しているのか。判らないでいるのは落ち着かない」

 冬に更に北のユートラント半島に行くのは苦労なのだか、ただ待っているのは軍人には忍耐力を強いられる。

 一つの朗報が来た。デンマーク軍がシュレスヴィヒ公国に引き上げ、アウグステンブルク公爵フリードリヒはホルシュタイン公国の統治者であると宣言した。

 一旦、カレンブルク、ハノーファー、ザクセンは軍を引き上げる。ピーターゼンやシュルツも無事に戻ってきた。


 だが、まだシュレスヴィヒ公国が残っている。

 更なる次の手は、プロイセンがオーストリアを丸め込んだ形で、出してきた。


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