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君影草  作者: 惠美子
第四章 ドイツ連邦の中で
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「結局のところ、下院で軍備拡張予算案が否決されたから、新宰相はあんな演説をしたのだろう」

「しかしそれで引き下がるような人物が宰相になるか」

「法解釈がどうのと言っているが、憲法で明文化されていない部分を上手くすり抜けようとしているのが手だ」

「法律の抜け道とやらか。どういう所を突いているのだ」

「プロイセンの憲法では、王と二院の意見が一致するのが予算法の成立要件だ。今回、王と貴族院が賛成し、下院が否決。ところが三者が一致しなかった時予算をどうするか憲法に規定がない」

「法的な取り決めがなければ、予算枠を自由にさせろってか。それで身動きが取れるのか」

「お手並み拝見だ」

 戦争屋としてドイツ諸邦の政治情勢は大事だから頭に入れておかなければならない。このプロイセンの新宰相ビスマルクがどんな人物か。郷紳(ユンカー)出身の保守派と聞く。

 保守派といっても毛色は様々だ。オーストリアとどう対峙するか、ドイツ連邦議会を軽視しないか。これはまだ情報待ちだ。しがない将校の身分では、南の軍団で軍備を怠らず整えて過すしかない。

「馬のご機嫌を損ねないようにするのには、女よりも気を遣う」

「そうか、おれには女の方が簡単だ」

「貴様は馬に蹴られる所に回るからだ」

「減らず口を」

 陽気に振る舞う仲間たちと兵舎で語り合うのはいつもと変わらない。軍用銃に後装式をもっと購入してほしいと仕事のことから、カードなどの賭け事、酒、女。

 白鳥のように美しく優雅で荘重な世界とは縁遠い。

 だが、官僚や政治家が己の才覚で法を定め、行政を動かすように、俺たちはこの荒々しいやり方で国を守り、他国を威圧する。弱味を見せたら、そこで負けだ。

 退屈で平穏な生活はここにはない。

 シュリヒテング中将の参謀も仮想の敵を想定しての作戦を地図と睨めっこで何回も練っている。

「兵站の輸送……、早くできる方法はあるのですか」

 用兵の意見を求められ、そう答えたことがあった。

「馬車よりも鉄道が利用できれば確実になるかも知れないが、カレンブルクでは首都の(プレヤデン)周辺ばかりで、プロイセンほど進んでいない。うまく使えれば、人だけでなく、馬だって疲労させないで済むだろうし、大量輸送ができる」

鉄道(レール)の敷設と蒸気機関車の調達が先ですね」

「そうだ、こればかりは軍だけで申請すればいいものではない」

 プロイセンでは鉄道を使用しての軍事演習が計画されていると聞く。軍備に差が開いていると感じざるを得ない。


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