四
俺に何か言わせようと突っかかてきそうだったが、レオン・ガンベッタを止めに来た人たちがいた。
「ガンベッタ、いい加減にしないか」
「そうだ、見たところ初めてここに来たお客じゃないのか。ここに来たら君に絡まれると、評判を立てられたら店が困るだろう」
レオン・ガンベッタは振り返った。
「スプラーにローリエ、遅いじゃないか。
あんたたちがいないから、意見を拝聴しようとこちらの紳士とお話をしようとしていたんだ」
名乗りもしない紳士相手によく「あんた」呼ばわりして、体制批判の言葉を引き出そうとするものだ。
独善的な自信家。まあ、社会改革を目指す草莽の志士はそうでなくてはやっていけない。
異相である点も含めて、レオン・ガンベッタは人の注目を集めるのに巧みなようだ。呆れながらも、俺は面白がっている。
「いえ、大革命の頃から変わらぬ志の高い方々が集う場所と感心しました。
お仲間がいらしたのですから、私に構わず、そちらでお話をしてください」
俺は卒なく応じ、ガンベッタとその一党の顔を記憶した。スプラーにローリエと呼ばれた、ガンベッタよりは年嵩で、双方とも髭面で、ガンベッタよりも余程紳士らしい身だしなみをしている。
「失礼」
二人がガンベッタを引っ張っていって、自分たちの席に座らせた。
人目を気にするようで、筒抜けだ。話し声は注意しなくても聞こえてくる。
「ルイ゠ナポレオンの外交上の失策続き……」
「メキシコに関しては亭主よりもスペイン女が熱心だった」
「アメリカ合衆国やプロイセンの方が上手」
面白いなあ。
視線を移すと、見知った男性がいた。あちらも気付いたようで、俺に小さく手を振った。俺は如何にも知り合いに出くわした風に席を立った。
「ムシュウ・ド・リオンクール、お久し振りです。その節はお世話になりました」
「ムシュウ・フォン・アレティン、ご機嫌よう」
リオンクール侯爵の席の向かいに座った。
「いつから見ていました?」
「初めから」
「お人の悪い」
「あのガンベッタ弁護士とその周辺は共和制支持の一党でね。こちらにとっては良き観察対象なのだよ」
「堂々と帝政批判をしている」
「批判だけで何らかの計画を立てている相談になるかなるまいか、そこに注視している。それに皇帝は自由帝政を目標にしているから、政府批判くらいできない社会はまともでと判っている。
判っていないのは皇妃の方」
リオンクール侯爵は発声法を変えた。
「宮廷警察の長官のイルヴォワ氏は正直に市井の声を皇帝に報告したのだが、間が悪かった。皇妃が近くにいたのに気付かなかった」
俺にしか聞こえない息遣いに近い声。俺も合わせる。
「つまり、あのガンベッタが言ってのけた単語を言った? 『スペイン女』?」
「如何にも。金切り声を上げて、寝間着姿に近い恰好でイルヴォワ氏の前に出てきた。体裁よりも怒りがあったのだろう。
威厳も何もあったものじゃない」
「貴方はどうなんですか? 貴方はこうしていますが、帝政に賛成している?」




