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君影草  作者: 惠美子
第二十三章 祝典と凶報
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 巴里は待ちに待った七月一日、晴天で祝典には相応しい。前日にオスマン帝国のスルタンとその息子たちが巴里に到着し、お祭りの気分は高まっている。

 緊張しているのは警備の担当、警察や軍隊だ。巴里に一気に周辺の王侯貴族やブルジョワが集合しているのだから、気が抜けない。

 物見高い庶民は博覧会の出展品のどれが表彰されるかの期待と、高貴な方々への単純な憧れで高揚して、街中や通り沿いに繰り出してきている。どんな理由でも人が集まるのは儲け時と、掏摸から真っ当な商いをする者までマーキュリーの信奉者も数えきれないほど来ているだろう。

 万国博覧会の褒章授与式は博覧会会場のシャン・ド・マルスではなく、シャン゠ゼリゼに面したパレ・ド・ランデュストリ(産業宮殿)で執り行われる。1855年の巴里の万国博覧会の会場になった場所だ。

 午後一時にナポレオン3世とその家族がテュイルリー宮を出て行進し、その時間に合わせてフリードリヒ王太子殿下も列席。王太子殿下は殿下で、伯林から連れてきた近衛兵がいる。ゴルツ大使も招待されているが、席は別だ。大使館の武官は、近衛と分担を決め、参謀本部付きの俺は大使の後ろに控えている。

 一時半には会場に褒章を受ける関係者たちがパレ・ド・ランデュストリの式典会場に集められ、整列させられている。

 テュイルリー宮からパレ・ド・ランデュストリまで目と鼻の先、徒歩でだって時間が掛からず来られる距離なのだが、飾り立てた立派な馬車にお歴々を乗せ、これまた威厳と安全の為の軍隊に固められての大行列だ。楽隊もいる。亀の歩みの方が早そうだ。

 楽を奏しながら会場にお歴々が定められた席に着くのにも時間が掛かり、時計の針が一回り。

 荘重で優雅な祝典をわざわざ乱す輩は出てこないだろうと願いつつ、フランス側の廷臣の一部に沈痛な面持ちの者たちがいるのに気付いた。ひそひそと囁き合っている。

 何故だ? 

 こんな大切な日に皇帝と皇妃が夫婦喧嘩したもあるまい。式典の準備に不手際があったとしても、それなら会場の外に出て、裏方に指示するなり、テュイルリー宮に連絡するなりすればいいのだから。

 各国からの列席者にフランスの国威を見せる舞台に相応しくない面持ちだ。

 ナポレオン3世の様子に変わった所はない。鈍そう、機敏には見えないと普段から容姿を評される皇帝はこんな時に得だ。何を考えているのか、感情が読めない。皇妃は皇妃でお澄まし顔はいつもの通り。

 悲劇の出演者の趣きの廷臣たちはやがて仮面を取り替えた。

 改めて軽快な音楽が響き、開会の宣言となる。

 博覧会に出展された品々や技術を、部門ごとに順位を読み上げてメダイユを与える段となっていくのだが、前方のゴルツ大使がシュタインベルガー大佐に何か言っている。大佐はハウスマン少佐に、少佐は俺にとそっと視線が送られた。

 俺は大佐たちに仕草で謝りながら、大使に近付いた。

「何か気になることでも?」

 振り返らず、大使は小声で告げた。

「廷臣たちの様子に気付いたか?」

「はい」

「何を話していたか探れるか?」

「近付ける所まで近付いてみます」

「祝いの席だ。無理はするな」

「了承しました」

 そっと俺はその場を離れた。

 さて、廷臣たちに直接近付けまい。その従者の待機場所あたりから探ってみるか。

 パレ・ド・ランデュストリ(産業宮殿)は、1900年の万国博覧会の時に別の会場の建設の為に取り壊されました。今のグラン・パレやプティ・パレのある場所です。

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