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君影草  作者: 惠美子
第二十二章 巴里の空の下
201/486

十一

 話題の振り方が不味かったか。

 表面の微笑とは違う嵐を内に隠しているようなアグラーヤに、でまかせは言えないし、その気もない。誤魔化せるような女性ではない。だが、経過の全てを話すのは愚だ。

 いずれにしろ、アグラーヤはベルンハルト伯父の未亡人に会うのを希望しているのだから、ベルナデットに遅かれ早かれ紹介しなければならないのだ。

 アンドレーアスが同席しているのだから、深く慮らずに済ましたい。

「日曜日の明日は店が休みだからとご都合をお訊きしたかったのですが、お仕事の予定があるとは、俺としても残念です」

「あんたはあんたでフロイラインをお誘いしたかったか。直接お会いするまで、俺にも内緒にしておくとは、意地が悪い」

「いやいや、重要な事柄だから、別個に伝えるよりも、同時に二人と相談した方がいいと決めていた。後で教えられたなんて聞かされたら、どちらも嫌がるだろう?」

 ふうんと顎を上げながら、アンドレーアスは俺を見た。それは確かに言えていると、納得してくれたようだ。

「それに会ったばかりで、俺だってあちらの詳しい家庭の事情を知らない部分がある。何せ、伯父の未亡人は、従妹のほかに娘がいる。父親は伯父ではない。伯父に出会う前に別に恋人がいたと説明された。

 ド・ラ・ヴァリエール家は女性ばかりで、こちらは聞き役に徹して、疑問があってもどう質問したらいいか、難しい」

 そう聞くと、女性は愉快と感じるのだろう。アグラーヤは可笑しそうだ。つまりはアンドレーアスも俺もアグラーヤに期待してお願いしにきたと、打ち明けているのだ。親しい男性二人に頼りにされているとなれば、先生も可愛い生徒を相手にしているようで、機嫌が良くなるだろう。特に『ティユル』に行けば、気に掛かることも自分で観察できる。

「どうしたらいいかしら?」

 アグラーヤは小首を傾げた。どちらにも興味があるし、仕事もあるしで迷うだろう。一人では決められない内容でもある。

「明日のお出掛けは決まっています。あまり遅くなっても、王太子殿下の来仏のある褒章授与式やその準備と重なって、アレティンさまのお仕事にも差し支えが出ますでしょう? かといって、折角の機会に、顔を合わせるだけでは寂しいですから、きちんとしたご挨拶をしたいです。ディナスさまのご用にも当然お役に立ちたいです。

 半日ずつ、二日に分けてお出掛けできるように、ローンフェルト夫人に相談してみますわ。それならほかの世話係も苦労しないで済むでしょうし、子どもたちも聞き分けてくれるでしょう」

 それなら多少時間を食って、遅れて戻ったとしても大丈夫だろう。お利口に待っていましたねと、大好きなフロイラインに褒めてもらえるように子どもたちも留守番できるし、家庭教師がふらふらと遊び歩くのではなく、ローンフェルト夫妻も見知った男性が同伴してくれての巴里見物だ。子爵令嬢にそれくらいの自由時間を与えるくらいしてくれるだろう。

「お部屋に戻る時に一緒にいらしてくださると、より心強いですわ」

「フロイラインがお望みでしたらそうしましょう」

「有難うございます、アレティンさま。

 でもその前に詳しく教えてくださいな。アレティンさまの知っている限りでの、その洋裁店のことと、そこのご一家のこと。

 ディナスさまは万国博覧会で目を付けたご婦人向けの品々について、産地や印象を」

 アグラーヤには正直でいなくてはいけないようだ。ディナスは張り切って説明を始めた。俺はどういった言葉遣いで伝えたらいいかと、演説の草稿を練るように考えた。

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