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君影草  作者: 惠美子
第二十二章 巴里の空の下
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 予想していなかった提案に驚いて、言葉に詰まった。

 今からアグラーヤに会う。

 会っていいのか?

 俺の中にある新しい感情をアンドレーアスは知らない。

「ローンフェルトご夫妻は知り合いのお歴々のお宅のご訪問で何日かは日数を取られると聞いているから、フロイラインはお子ちゃまたちとホテルにいるはずだよ」

 俺の様子に気付いてかどうか、アンドレーアスは異議はないだろうと話を続けた。

「ここシャン・ド・マルスからセーヌ川を渡ってちょっとで、滞在先のホテルに行ける。ま、今日の天気はいいが、大通りを歩くのが嫌なら、辻馬車を拾えばいい」

 主人夫妻が不在だとしても、アグラーヤは主人夫妻の子どもたちを預かっている身だ。俺は当然の疑問を口にした。

「いくらローンフェルト夫妻がいないからといって、いきなり訪ねていって、迷惑しないだろうか?」

「子どもの身の周りを世話しているのは何もフロイライン・ハーゼルブルグ一人じゃないし、子どもたちだって折角の家族とのお出掛けで巴里に来たのに、ホテルで親を待ってて、お勉強じゃあ退屈だろう? 

 少しの時間でいいんだ、フロイランや子どもたちの退屈しのぎ程度に面会しよう。それで感触が良ければ、次に会う約束を取り付ける。約束ができれば、フロイラインが雇い主に自由時間を申請しやすくなる」

「悪知恵だ」

「いい考えだと言ってくれ」

 最早反対する理由も気もなかった。アンドレーアスのお勧めの物産を見定めたところで、昼食を摂り、グランドホテルに赴くと自然に決まってしまった。距離としては徒歩で行けるが、場所と相手を重んずれば身なりを乱したくない。馬車が無難だ。

 アンドレーアスに合わせて、何でもないようにしていよう。下手に今どうしているだの、ベルンハルト伯父の娘が気になっているだの、言わなければいい。以前に伝えた通りプロイセン大使館に勤め、この頃ベルンハルト伯父の家族と会ったと当たり障りなく、報告だけしていればいい。

 アグラーヤだって俺の行状を探ってみようとはしまい。機密のある仕事をしているのだと、彼の女だって理解しているはず。俺が気にし過ぎているのだ。

 今日の空のように、晴朗であればいい。心に曇などあるものか。アガーテの父と母の関係でも、我々は色恋でつながっていない。十代の頃からの友人同士だ。ベルナデットを紹介したら、きっと親しみを感じてくれるだろう。俺の従妹でもあり、フェリシア伯母の姪でもあるのだ。仕事を持つ女性同士、通じる事柄だとてあるだろう。

 俺は自身の弱気を嗤った。気に病んでいても仕方がない。アンドレーアスも共にいることだし、前進をためらってはいけない。

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