五
アンドレーアスの食べる勢いに、目が離せなくなっていた。食べ物から顔を上げたアンドレーアスが俺を見て、可笑しそうな顔をした。
「朝飯は済ましてきたんだろうに、物欲しそうだ」
「おまえの食べっぷりに惚れ惚れしたんだよ。去年の今頃はろくな物を食べていなかった、とにかく腹が満たされれるのが優先の食事をしていた。
それから比べれば、それだけの量の朝ご飯でも贅沢に見えて涙が出そうだ」
残りのパンを千切って口に放り込み、アンドレーアスは器を持ち上げカフェ・オレを飲み、上品ぶった手付きでナプキンで口元を拭いた。
「俺はあんたと違って、森や野っ原に行っても食べられる植物を知らないし、自分で兎や猪を撃って、解体する術も知らない。
そして良い品物なら金に糸目を付けずに所有したいと望む方々との損得抜きでのお付き合いもない。全ては商売絡み。
あんたがお付き合いのあるような方々の好まれるような品々かどうか、あんたの目利きを頼るんだ」
「俺はおまえと違って、株の売り買いを知らない。商売の理屈は知っているが、それこそ説明書きを読んだだけで馬の乗りこなしや大砲の撃ち方ができないのと同じだ。多少の提案はできても、所詮は素人、アンドレーアスが好きに判断してくれればいい」
「補い合って、アレティン商会が儲かれば、それで結果は良し、だろう?」
「勿論だ」
簡単に、と本人が言っていた通りの簡素な食事を終えて、アンドレーアスは席を立った。そんなに急がなくてもよかろうに、気が急くらしい。万博会場を早く案内し、俺が肯けば目を付けた品物をすぐにでも買い付けようと考えているようだ。
会場まで行く途中、早速説明が始まった。
「葡萄酒はドイツ連邦の様々な場所で生産しているが、当のフランスだって生産している。微妙な味の違いがある。違うところが売りになるかどうか試したい。
葡萄酒だけでなく、酒を注ぐ器に凝りたい方々もいるだろう? クリスタルの素晴らしい器の数々、前評判が高い物がある」
「成程、寒い国の葡萄酒と暑い国の葡萄酒は違う、当然赤と白も風味が違っているだろうし、ボトルのデザインだって、この万博を機に改めている所もあるかも知れない。香りや味だけでなく、色合いを楽しむための器か。それも宝石のように扱わなければならない器。通と言われたい人間相手になら、幾らでもお勧めの台詞が湧いてくるんじゃないか?」
「あんたがそれを手にして格好つけた姿を客に披露してくれたら効果抜群だよ」
「俺をボン・マルシェかどこかの売り子にする気か?」
アンドレーアスは大笑いをする。
「あんたが軍人にならない、ボンクラな坊ちゃんだったら社交場で売り子の役目をしてもらう気だったよ」
もう少し物の言いようがあるだろう。
「ひどい奴だ。俺がなんでも一流品を身に着けなければ気に済まないような人間でないのをさいわいと思えよ」
アンドレーアスの笑い声が止まらない。商魂たくましい、明るくて憎めない奴だ。




