四
ベルナデットは俺が疑問を抱いた様子を見ていた。
「家族の説明は後からしますから、少し待ってくださいね。話せばながーくなりますので」
戸惑う俺は、とりあえず手土産を、些少乍らお近づきの印にと差し出した。
「まあ、有難うございます。珍しいお菓子のようですね、お持たせですけど、一緒に召しあがりません?」
マリー=アンヌはにこにこと受け取った。
「ええ」
「ムシュウ、まずはお掛けください。今、お茶など準備します」
応接用のソファーを示して、勧める。客の立場とはいえ、女性陣を前に一人で座っていいのか、迷った。しかし、俺が座らないことには彼の女たちが落ち着かないのだろう。立場が上と割り切ろう。
俺が座ると、ベルナデットは日傘や帽子を片付けて、母を呼んできますと下がろうとした。手土産を持ったマリー=アンヌがそれを追って、ベルナデットの袖を引っ張るようにして、ひそひそ話を始めた。俺の所まで声は聞こえない。しかし、好奇心丸出しの表情は見えた。できれば、俺から見えない場所に行ってから会話してもらいたかった。
「側に座ってもいいですか?」
小娘、いや、ベルナデットの姪っ子が俺に話し掛けてきた。この年代は怖い物知らずの上に、俺への興味を微塵も隠さない。断っても側に貼り付いているだろう。邪険にする気はない。
「どうぞ、マドモワゼル」
少し間を開けてソファーの端にストンと勢いよく腰を下ろした。淑女の真似事をしていても、子どもっぽさが抜けていない。
「叔母さんと呼ぶと嫌がられるから、ベルナデットをお姉さんと呼んでいます」
笑わせようとしているのかな?
「それはそう呼べと、叔母さんから言い付けられているのかい?」
姪っ子ルイーズは笑って答えなかった。
「母と叔母は十以上年齢が離れているから、色々気にしているみたい。でも、わたしとも姉妹には見えないと思いませんか?」
ルイーズの顔を不審に思われない程度に観察した。赤味がかった金髪をひっつめに結って、青い目に、小づくりな印象がマリー=アンヌに似て、将来に期待できる器量の持ち主だ。
「う~ん、やはり若い叔母さんと姪っ子に見えるね」
「やっぱり、そうでしょう」
ルイーズは面白そうにはしゃいでいる。そんなに楽しいのだろうか。子どもなんだな。世の中の明るい面しか知らない、羽ばたいて飛び出していくのに一切不安のない、希望で一杯の若鳥。
小娘には簡単な質問だけするとしよう。
「ここは店舗兼ご自宅なのかな?」
「ええ、そうです。一階がお店、二階の一部に作業部屋がありますけど、おばあちゃんの部屋や食堂や書斎になっています。三階がわたしたちのお部屋や住み込みで働いている人の部屋。四階も使うことがあるけど、専ら倉庫代わりです」
「ほう、女性ばかりなのかな?」
「仕入れや経理をしてくれる男性が一階の奥の部屋で仕事をしていますよ。その人は通い」
この説明の仕方からすると、その男性は事務方担当で、家族や親戚ではないな。女性客がほとんどの店だから、経営者も店員も女性と自然に定まってきたのだろうか。それにしても、父親、配偶者の立場の男性の姿が見えてこない。




