八
鳥類園に入った。普段街中や田園で見る雀や燕、鳩、猛禽類とは全く違う羽の色の鳥がいる。孔雀以外で明るく鮮やかな鳥がこんなにもいるとは知らなかった。ベルナデットも目を見張り、喜んだ様子だ。
「風鳥には足がないなんて、誰が言ったのかしら」
極楽鳥は空を飛び続けるので足がないと、そんな昔話を聞かさせた。だが、ここにいる極楽鳥は木の枝に止まっている。
「それは随分古い説なのでは?」
「あら、そうなんですか?」
わずかに悔しそうな色を頬にのせた。言い返してこない所を見ると、俺の言葉に納得したのだろうか。
「孔雀や駝鳥の羽を髪や帽子に付けなくても、リボンや布の工夫で、こんな可愛らしい鳥の姿形をそれらしく作れたら面白そう」
すぐに発想を変えてきた。無駄に鳥の羽を毟るより、意匠を凝らした方が鳥の為にも、女性の衣装の手入れのし易さにも良さそうだ。羽布団ならともかく、羽飾りは折れないように扱うのは手間が掛かる。
「貴女はアクセサリーのデザインはしないのですか?」
「アクセサリーまではしていません。服とそれと揃える為の帽子までです。意匠は数をこなさないといい物が出てこないですから、あまり手を拡げすぎると大変です」
「難しいのですね」
ベルナデットは澄まして肯いた。
「殿方だって狩りの射撃は練習しないと上達しませんでしょう? 色はこうして、袖や上着はこう、飾りになるように布の断ち方に変化を付けてみようとか、幾つか案を出して下絵を描いてみるんです。練習してみないと上手くなりませんし、センスも洗練されてきません。
後から見返すと、仮装舞踏会じゃなければとても着ていけそうにないような、突飛な物だったと恥ずかしくなるような絵もあります」
判ったような判らないような、とにかく頭に浮かんだ意匠を色々と試して、貴婦人方から気に入ってもらって注文を取るよう努力が必要らしい。
まあ、意匠の提案は一つ二つでは店の商売は回せないか。社交の場に出るとなれば、女性たちは夜会服をしょっちゅう作らなければならない。同じドレスで一つの季節を過すのはみっともない、父や夫の経済力が疑われる。
独身でさいわいだと、それだけでも有難くなる。
鳥たちを一通り見て、庭の作りを改めて眺めた。
「私はイングランド風の、自然の風景を活かしたような庭園が好きです」
「わたしもです」
「そうですか、幾何学模様、左右対称にきちっと作りこまれた花壇など、フランス風の庭園はどうお思いで?」
どうでしょうねえ、とベルナデットは少し考え込んだ。
「どちらも好ましい点があるには違いないと思います。
あまりきっちりと作られていると、不自然に見えてきます。でも自然の風景を見せるようにといっても、英国式庭園だって剪定したり、落ち葉を掃いたり、余分な蕾を摘んだりして人の手が入っていますでしょう?
左右対称のフランス風の花壇だって、目を楽しませるのには違いはないです」
ふっと微笑が浮かんだ。
「ええ、そうですね」
誘われるようにベルナデットも微笑んで、俺を見詰め返した。素直な気持ちが口から出た。
「貴女との会話は楽しい。貴女の豊かな機知が、美しさを更に輝かせています」
ベルナデットは俺の言葉に、胸に手を当てた。動揺して、痛みを堪えるかのように見えた。目をそらして、しきりに瞬きをした。
えっ! 何か間違った言葉を言ったか? こちらも心臓を掴まれたかと感じるくらい、ぎょっとした。
伏せたベルナデットの目から涙が零れた。