七
ジャガイモのポタージュスープ。白い滑らかなスープにどんな野菜を混ぜ込んだのか、煮込んで鮮やかさの抜けた緑が散らばっている。収穫時を逃して、茎や葉が硬くなりかけたクレソンかパセリだろうか。
食事前の簡単な祈りをして、二人してスプーンを取った。まあまあの味だ。苦い薬を飲む子どものように神妙そうな顔つきをしていたベルナデットは、安心した様子だ。
「何にでも先入観はいけないみたい」
と、スープを美味しそうに口にした。
「フランス人好みに工夫しているかも知れません」
「イングランド人が?」
おや、意外と皮肉も言うのか。
「前の世紀の革命で、貴族に仕えていた料理人がヨーロッパ諸国に散らばっていったお陰で、イングランド人は美味しさを知ったんです」
そこはお国自慢のし過ぎというものだ。
「古代ローマの恩恵を受けているのは、ゲルマニアもブリタニアも、ガリアも変わらない」
ベルナデットは得意そうに肯いた。
「ええ、古代ローマでは蝸牛も食べていたと聞いています」
そうだ、フランスでは蝸牛を食べていた。葉の上をのそのそと這い回る蝸牛。言わなければ良かった。
「蝸牛より牡蠣や鰊の方が美味しそうな気がします」
ベルナデットは複雑な様子で首を傾げた。牡蠣を例えに出したのがまずかっただろうか。見た目が良くないあたりが似ていると連想して口から出た。
「ムシュウは鰊がお好きですか?」
「ええ、学生仲間で鰊の酢漬けが好きな者がいましてね、ちょっとした思い出があります」
シュルツの好物だ。嫁さんから作ってもらっているだろう。
スープのスプーンを置いたのを見計らったように、メインのローストビーフとヨークシャー・プディングと付け合わせの野菜が運ばれてきた。香りがいい。
ソースを絡めて切り分けた分を食べる。グレービーソースのほかにももう一種ソースがあり、これは林檎か林檎酒を混ぜて煮込んだらしい。ヨークシャー・プディングは小麦粉と卵、牛乳だけ作ったのではなくて、何かの果物を風味づけて入れているようで、ソースと合っていて、面白い味わいだ。
「この取り合せも美味しいです。ソースだけでなく、プディングにも林檎のお酒を入れたのかしら?」
「成程、何の果物の風味かと思いましたが、林檎ですか?」
「もしかしたら、ですよ」
二人して真剣にプディングを突いて、ゆっくりと食べる。口の中に拡がる香りや味わい、確かめようと、考え込んだ。
「林檎ですね」
「ええ、林檎みたい。肉の油がしつこくならなくて、さっぱりした香りが楽しめます」
意見が合って、二人で笑った。ここで給仕を呼び出して答え合わせをするのは野暮だ。間違っていたら詰まらないし、合っていたからと言って自慢になる類いの事柄ではない。テーブルを共にしていて、会話が弾んでいればいい。
ローストビーフの調理加減も付け合わせの旬の野菜もなかなかで、舌は料理も会話も充分に楽しんだ。
何かデザートを? と尋ねると、ベルナデットはほかの場所を観てから、その後にいただきませんかと提案してきた。それもよかろう。というよりも、違う店の食品を見てみたい気持ちもあるから、異議はなかった。
それにまた歩き回れば、休憩する。




