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君影草  作者: 惠美子
第十七章 喜劇は続く
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 喜歌劇の鑑賞から一夜明けて、シュタインベルガー大佐から、来月早々伯林から国王陛下と王太子殿下が巴里に行幸されると知らされた。倫敦会議がプロイセンに有利に進んでまとまりそうだと連絡を聞いていたが、会議の終了を待たないらしい。

「陛下と殿下のお供に宰相閣下、総参謀長閣下も一緒だそうだ」

 宮廷がまるごと移動してくるような仰々しさだ。戦時ではないからと、首都も国も放って万国博覧会の見物をしに来るのか。大国になるとやることが違ってくるようだ。

「何、伯林から近衛隊が付き添ってくるのだし、フランスに着いてしまえば警護はフランス側もしてくれるから、貴官が護衛に貼り付く必要はない。大使の護衛の任に当たってくれ」

「はい、了解しました」

「それにだ、ロシアの皇帝やその皇子たちも時を同じくして来仏する予定になっている。相当巴里の街が賑やかになる。

 参謀本部からの指令があれば、そちらを優先して、細かい点は事後報告で構わない」

 忙しくて何よりと言いたげな笑い方をした。いや、まだ俺は何の指示も受けていない。モルトケ閣下も一緒に来仏するなら、フランス部の少佐も来るのだろうか。我が大使館も多忙となるが、賓客を多く受け入れるテュイルリー宮廷も大わらわになるだろう。下手な騒ぎが起こらぬように祈りたい。お偉方の面倒事は誰でもごめんだ。

 各国の貴顕が大人しく万博会場を見学し、ナポレオン3世主催の閲兵式や歓迎の晩餐会だけで満足してくれればよいのだが、喜歌劇上演の舞台はイタリア座のほかにもあることだし、羽目を外す目的で歓楽街に出掛けたいと、護衛や大使を患わせる可能性が大だ。宮廷で権威を示す為に格式ばった規則を決めておきながら、それに縛られていると窮屈さに飽きると、お忍びをしたくなるのが高貴な方々の悪癖だ。勿論お気の毒な立場の方々もいるのだが、いい大人がしていいことかと目を瞑り、耳を塞ぎたくなる。醜聞すれすれの弱味を知っていて損はないと、嗅ぎ回れと言われたら動くしかない。

 ナポレオン3世が普段から宮廷の美しいと評判の人妻どころか、令嬢にも手を出していると噂され、名の知れた高級娼婦で皇帝の相手をしていない者はいないと囃されているのだから、来仏した貴顕たちがそれに倣いたくなっても止められない。

 巴里の華やかさが目の前にあって、それに触れずに帰国するのは惜しいと感じて実行しても、短期間の滞在中の気紛れと片付けられる。

 そして、そんな巴里の状況を照らして、大物が遊興するのはガラス越しの風景のようにすぐに判ってしまうだろう。

 イングランドの王太子夫妻がヴィクトリア女王の名代で今月から巴里に滞在中なのだか、王太子は夜毎、妃の相手をするよりも、巴里の女性を求めるのに忙しいと専らの話題になっているくらいだ。

 やれと命じられたら執行するが、詰まらん仕事だ。

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