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君影草  作者: 惠美子
第十六章 コミック・オペラ
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 レヴァンドフスカ嬢は穏やかに礼儀正しく、挨拶をして、俺に手を取られ、大使の馬車に乗った。俺も続いて馬車に乗り込んだ。

 御者に合図をし、馬車は走り出した。

 レヴァンドフスカ嬢は無表情。俺も愛想を見せる必要を感じず、無表情で、無言。

 宿の近くになってやっと小娘は口を開いた。

「本当はわたしを送るのは不本意だったのでしょう?」

「いいえ」

「本音を仰言って構いませんのよ。先程の洋裁店のご婦人たちが気になっていて、誘いを掛けたかって」

 うるさい小娘だ。俺がほかの女性に気を取られようが、関わりなかろう。

「でも、洋裁店のご婦人たちだって嗜みはあるようでしたわね。流石に初対面の男性から話し掛けられて、すぐに乗ってきたら、はしたない仕事をしていると勘違いされてしまいますもの」

 世間知らずにそこまで悪しざまに言われる筋合いはないぞ。おまけにその言い方は、俺だけでなく、洋裁店のご婦人たちも低く見ている。

「小官が買った手袋をしてこられなかったのですね、残念です」

 小娘はむっと睨み付けた。

「父に誂えた品でないとすぐに見破られてしまいますから、できませんでした! 折角の贈り物でしたのに、申し訳ないですわ!」

 向きになるところが子どもだ。

 馬車は宿に着いた。俺は彼の女の手を取り、馬車から降ろし、宿へ入っていった。ロビーで俺は帰る為に、レヴァンドフスカ嬢に言った。

「宿の者に言い付けて、部屋に案内させるか、侍女を呼んでこさせるかさせましょう。どうします?」

「どうしますって、貴方はどうなさるのですか?」

「貴女を宿に送り届ける用は済んだのですから、すぐに大使館に戻ります」

 小娘は瞠目し、そして詰まらなそうに唇を尖らせた。

「少しお話し相手をしてくださらないかしら」

「早く帰らせてください」

「意地悪ですね」

「礼を失していないでしょう。侍女を呼びます」

 宿の者を呼び、レヴァンドフスキ伯爵家の令嬢が戻ったので、侍女か召使に迎えに来るようにと心付けを渡して言い付けた。

「一人で父や兄を待っているのは退屈なんです。少しくらいいいでしょう」

「早くお休みになるのがよろしいです。ほかに召使も連れてきているのでしょうし、お休みなっていても怒られはしないでしょう。それに女の子を相手に、何を話したらいいか判りません」

 言い合っているうちに侍女がやって来た。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 侍女は俺に気付いて、腰をかがめた。俺も侍女に軽く礼を返した。

「小官は……」

「送っていただいたお礼にお茶を差し上げたいの。部屋にご案内するから、あなたはお茶の準備もお願いね」

「かしこましりました、お嬢様。まずはお部屋にまいりましょう」

 侍女は案内しようと、先に歩き始める為、向きを変えた。レヴァンドフスカ嬢は俺の左手にしっかり右手を乗せていていた。恥をかかせないだろうと悪知恵を働かせて……、振り払って逃げ出してやろうか。

 ともかく、部屋にだけは送ってやろう。

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