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Sequel

「告白だよ?」


 香苗の唐突な言葉に、思わず「……え?」と聞き返す。いつもならすぐ言葉が出てくるのに、何故か今は出てこない。何も言えず黙っていると、香苗は笑顔で「ねぇ」と口を開いた。


「……早くフってよ」

「え?」


 香苗の口からそんな言葉が出る。俺は驚きのあまり言葉を失っていたが、香苗の「早くっ」という言葉で我に返る。


「あぁ……うん。ごめん」

「うん、ありがとっ」


 そう微笑むと、香苗は「じゃあ」と踵を返した。


「私はここで。咲ちゃん待ってるっぽいから、早く行ってあげてね」


「じゃあねっ」と言って、香苗は走って帰っていった。俺は、何故か走り去る香苗の後ろ姿に手を伸ばす。だが、すぐ我に返り、俺は春宮が待つ校門まで足を進めた。

 にしても、俺は何故香苗の告白にはすぐ返事ができなかったんだ? いつもなら、迷いなく断っているのに。それは、心に迷いがあったって事か? 何で、香苗の時に――……


「……君、木崎君? 木崎君! 聞いてる?」

「……え? あ、ごめん」


 春宮が俺の顔を覗き込む。俺は「何て言った?」と春宮に聞く。


「また告白されてたでしょ。あと……小田切さんと、何話してたの?」

「……べつに、たいした事は」


 心配そうに聞く春宮に、俺は素っ気なく答える。春宮はその様子に更に心配したのか、「………もしかして、告白?」と言った。


「……べつに」


 何で、俺は隠したんだろう。いつもなら、隠していないのに。べつに、隠す事ないのに。でも、春宮は俺の嘘を見抜いたように、


「……やっぱりされたんだ。木崎君と小田切さんって仲良いもんね。小田切さんが木崎君の事を好きになるのわかるよ」

「……」


 どう返したらいいのかわからない。春宮は、俺に何を言わせたいんだ。「俺には春宮がいるから」か? それとも、「香苗とはただの友達だから」とか言わせて安心したいのか? どちらにしろ、今の俺はそれを言う気にはなれない。何故かはよくわからないが。

 にしても、ホントに驚きだ。香苗が、俺の事を好きだったなんて。そんな素振りを見せたことないのに。でも……俺は香苗とどうなりたいんだ。俺がフった事によってもう喋れなく話せなくなるのは嫌だ。唯一、趣味の合う友達なんだ。一番話せる、女友達なんだ。でも……友達で終わりたくない、そんな気がする。たぶん、それは――……


「わっ」


 突然、冷たい風が吹いた。それと同時に、春宮の長い髪がたなびく。長い髪を押さえながら寒そうに腕を擦る春宮に、俺は「これ、使いなよ」と自分が使っていたマフラーを差し出した。春宮は一瞬迷いを見せ、その後素直に受け取った。

 その後、無言で春宮を家まで送り、俺自身も我が家へ帰った。何故だか今日は物凄く疲れたので、帰るや否や自室へ向かいベットにダイブする。寝返りを打った時、手に何かがあたった。それを見てみると、桜瀬よもぎの本だった。


「来週……か」




「これ。昨日はありがとう」


 休み時間。春宮がマフラーを返しに俺の所に来た。俺はこれはいいチャンスだと思った。


「あのさ、春宮さん。ちょっといい?」


 俺は春宮を人気のない廊下につれてきた。誰もいないのを確認し、俺は口を開いた。


「別れよう」


 俺の言葉を聞いた春宮は目を丸くした。暫くして、やっと言葉の意味を理解したのか、口を開いた。


「……え? 何で? どうしたの? 急に」

「……ごめん」

「ごめんじゃわからないよ。何でなの……?」


 春宮の声がだんだん震えてくるのがわかる。泣きそうなのだろうか。何て言えばいいのかわからず、言葉を選んでいると、春宮が「四年も続いたのにね……」と口を溢した。


「……でも、香苗とは五年もだ」

「……やっぱり、小田切さんなんだ……」


 そう呟くと、春宮は「もういいよ」と少し怒り気味に言った。背を向けた春宮に、「ごめん」と一言残し、この場を去った。




 あれから一週間。香苗とも、春宮とも話していなかった。話しかけてこなかったのもあるが、俺から話しかけるのもなんか気が引けたからだ。でも、自分から動かなくちゃ始まらない。そう思い、ここに来た。

 駅前の本屋。いつも香苗が本を買う場所だ。この時間にいるとは限らないが、今日必ず来るはずだ。何故なら――今日は、桜瀬よもぎの新作発売日だからだ。実は、この時間に香苗が来るという自信もある。香苗は、ああ見えて少しせっかちなところがある。いつも、本屋が開店してすぐ買いに行くらしい。だから、開店時刻の十時に来たのだ。

 俺は、香苗がいる事を願って、桜瀬よもぎの本が並んでいるコーナーへ向かった。するとそこには――……


「……早速買うんだな」

「琉真……」

「やっぱりいた」


 目を丸くして俺を見る香苗に、俺は微笑みかけた。未だに驚いた表情の香苗に、俺は言った。


「……俺、香苗の事が好きだ。俺と付き合わねぇ?」

「……私は、もともとそういうつもりだし」



「ごめん」で始まった俺の恋は、この時、無事に実ったのだった。

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