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賢者様を待っている世界で  作者: 三條聡
第6章 テグネール村 4
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雑貨屋の布

風邪ひきました……。

PC、調子悪いです(涙)

 村の案内を終わって家に戻って来ると、7人で出かけたのに、13人になっていた。

 もう、笑える。


「私は、お買い物に行けるの?」

「えっ?」

「アッフたちに、この子たちの面倒をみれるの?」


 誰に聞くとなく、不安で声に出てしまった。こんな小さな子供がいて、アッフたちに任せて大丈夫なのか、家で大人しくできるはずはない。せめて、アーベルくらいは残っていないと危ないのではないかと思ったのだ。


 この村は、子供が多い。大概の夫婦には3人くらいの子供がいるんじゃないかと思う。その上、夫婦共働きでお母さんたちは家事をしている。

 それでも、ここの子供達は兄弟の面倒を良く見る。レギンの兄弟に触れて、それはとても良く解ったし、ベアタちゃん兄弟なんて、まだまだ手のかかる子がいるのに、お母さんが亡くなっているので、ベアタちゃんは小ちゃいお母さんになっている。家にお婆ちゃんやお爺ちゃんがいる場合もいるんだけど……。


「大丈夫だよ、アレでも時々、子供達の面倒を頼まれるからね」

「頼む?」


 なんと、わざわざアッフに頼む豪の者がいるらしいのだ。その主な原因は、ダニエルが子供達のヒーローだからだそうだ。

 食いしん坊で、良く考えずに口にして、結構乱暴なイメージなのだが、自分より年下の子供達には、とても優しく面倒見が良いそうだ。子供には、決して乱暴なことはしないし、実に忍耐強く相手をしているのだとか。

 アッフのリーダー格のダニエルが、子供の面倒を見ると言えばブロルやニルスやヨエルも共に相手にするのだそうだ。その時に、子供に乱暴なことをしたり、強い口調で叱ったりすると、ダニエルに怒られるので、素直に従っているのか、それともこのダニエルの騎士道精神を見習っているのか、本当の所は解らないが、とにかくアッフたちはお母さん方からの信頼が厚いのだとか。


「てことで、買い物に行こうか」


 アーベルが心配いらないと言うなら、私には異存はない。

 荷車を再び引いて、アーベルとオロフさんのお店へと向かった。


「オロフさんのお店で買えないものは、注文できるって言っていたよね」

「時間はかかるけど、オロフさんの所でオリアンへの馬車を定期的に出しているんで、そのついでになるかな」

「オロフさんの所のものを買い占めると、村のみんなが困ると思うんだよね」「そうだね、オロフさんの所で買うしかないからね」


 座布団のカバーの為に、パッチワークをしたいと思っているのに、布が手に入らないと困る。が、もしかしたら、端切れくらいなら、各家庭にあるかもしれないと思うのだが……。


 アーベルとオロフさんのお店に到着して、最初に目に入ったのが店の前の荷馬車だった。この馬車は、買い出しに向かうのか、それとも買い出しから帰って来たのか……。

 馬車の周囲を点検するように、男の人がいる。その人にアーベルは声をかけたのだ。どうやら顔見知りの人らしい。まぁ、小さい村だから、顔見知りではない人は居ないよね。


「ロビンさん、こんにちは」


 ロビンさんとアーベルが呼ぶ男の人は、奇麗な金色の髪をして、人懐っこい笑顔で振り返った。


「やぁ、アーベル。頼まれていたもの、受け取ったかい?」

「はい、ありがとうございます。買い出しに行くんですか?」

「そう、これから行っていろいろ仕入れてくるよ。もうそろそろ、冬の支度で村の皆も色々と必要になるからね」


 緑色の瞳が印象的で、優しそうな人だった。アーベルが紹介してくれた所、オロフさんの息子さんだと言う。筋肉質の相撲取りみたいな体型で、山のような大男の息子さんとは思えなかった。

 金色の髪に緑の瞳に、背はまぁまぁ高い方だが、横幅はオロフさんの3分の1くらいしかない。


「こんにちは、エルナちゃん」

「こんにちは、ロビンさん」


 『初めまして』と言うつもりだったが、ロビンさんのセリフから、私も通常の挨拶で済ませた。私の挨拶を聞いて、にっこり笑うその顔は、本当に柔らかい。


「あっ、そう言えば、ミケーレ村長は無事だったんだってね」

「そうなんですよ、今ごろ手紙を寄越すなんて……」

「エイナちゃんが優先だったんだろうからさ、まぁ、そこは許してあげようよ。生きていてくれただけでも、ソール神とノート神に感謝だね」

「まぁ……そうなんですけどね……」


 アーベルは渋い顔だ。ミケーレさんからの手紙を受け取り、生きていることが解った時は、涙しながら喜んでいた。が、時間がたつにつれて、今頃になって手紙を寄越し、1人でエイナを助けるために帰ってこない父親に、沸々《ふつふつ》と怒りが沸き上がってきたのだと言った。

 まぁ、解らないでもないけどね。


「ところで、オロフさんの所って、布の在庫はありますか?」

「布?」

「沢山布が必要になったんです。でも、買い占めたら、村のみんなが困っちゃうと思って」

「どれくらい必要なの?」


 ロビンさんの問いに、アーベルは答える代わりに私を見た。


「端切れって売っていますか?」

「端切れは、あるけど……そんなものが欲しいのかい?」

「え?」


 端切れは売り物じゃないらしい。

 私は頭の中にあるもと、この世界の布の売り方を考えていたのだが、良く考えたらこの世界の布ってどうやって作って、どんな形で売られているのか知らないのだ。私の世界では、機械で布は織られて、端からくるくると巻かれる。そして、私たちは望む長さをそこから買うのだ。


「端切れは売ってませんか?」

「特に売り物ではないけど……もし、買ってもらえるなら嬉しいけど……さて、値段はどうしようかな……」

「値段ですか?」

「それは、そうだろう? だって短い布の切れ端なんて、売れないものだからね」


 私は、無意識に首を傾げていた。

 短い布なんて売れないとはどう言うことなのだろうか。短い布だって、当て布やリボンやらの小物を作るのには必要だと思うのだ。私は素直に、ロビンさんにそう言ってみたけど、ロビンさん自身に「そんなこと思いもしなかった」と言う表情だった。でも、ロビンさんはやっぱり首を振った。


「でも、端切れはそれぞれ持っていると思よ。みんな、家では家族の服なんかを作るために、一度に沢山の布を買っていくからね。そもそも、服作りとなると端切れは大量に出るからね」

「欲しがる人はいないのか……」

「欲しがる人はいるけど……たとえば、服が破れたりして、当て布をする時にちょうど同じような色が無い時なんか、端切れを欲しいって言う人がいるよ」

「なるほど……」


 3人で店に入り、ロビンさんは奥に入って行く。アーベルと店に陳列されている布を見てみた。

 この世界の布は四角く畳まれていた。長さは120センチのものが何メートルもあると見える。それが四角く折り畳まれている。


「これ、どうやって買うの」

「これをオロフさんの所に持って行って、好きな長さを買うんだよ」

「2メートルとか、3メートルとか? 2メートル50センチとかの買い方もあるの?」

「あるよ」


 好きな長さを購入すると言うのは、私の世界と同じだと言う。では、やっぱり端切れは存在するのだと理解した。洋服を作るのだとしたら、ある程度の長さが必要になるのだから、50センチとかの10センチ単位で残ると、それは小物を作らないとしたら、やはり売れ残り商品になるのだ。


「よぉ、アーベルにエルナ」

「こんにちは」

「今日はどうしたんだ」

「布の端切れを買おうと思って」

「そりゃぁ、ありがたいな。でも、そんなモンどうするんだ?」

「ありがたいんですか?」

「そりゃぁそうさ、端切れじゃぁ服は作れないからな」


 布=服だけしか無いのだろうか、それとも、服は殆んど家で作られるので、端切れなんかは沢山あるのか、いまいち判断ができない。


 ロビンさんは、奥から木箱を抱えて戻って来た。一辺1メートルくらいの正方形の木箱だった。目の前で蓋が開けられたのだが、沢山の色の布が入っていた。

 この世界の布は単色だ。しかし、染め方が一定ではないのか、同じような色に見えても比べてみると違うのだ。手染めなのだろうが、技術が一定でないのか、染色の材料が作られている所によって違うのか……大きな疑問だ。


「これ、全部で幾らですか?」

「本当に買うのかい?」


 ロビンさんは、困惑した表情で私を見るが、何故、そんな顔をするのか私には解らない。


「いくらですか?」


 私の問いかけに、ロビンさんはオロフさんの顔を見る。二人で顔を見合って、無言で会話をしている。


「端切れなんて買おうって言うお客が居ないから、値段はついてないんだよ」

「売れない?」

「いや……そんなことはないがなぁ……何だか、金を貰うのも悪い気もするしなぁ……」


 なるほど、売れないものに値段をつけるのが申し訳ないと言うことらしい。流石、テグネールの村人である。


「こっちの布は、幾らですか?」

「そりゃぁ、50センチで大銅貨3枚だよ」

「この布を長さを全部調べれば値段は出ますよね」

「まさか! そんな値段では売れないよ」


 勿論、これはそのままの値段で売るのは申し訳ないという意味だ。


「それじゃぁ、こっちから買った方がいいですか?」

「いやいや、これを買ってくれるなら、それの方がありがたいんだよ」

「……幾らで?」

「……どうするロビン……」

「ええ〜、俺に聞かれても困るよ」


 値段を決めるまでには、まだまだ時間がかかりそうなので、私はアーベルに手伝ってもらって、端切れをそれぞれの長さを調べた。でも、全ての長さを調べ終わっても、オロフさんとロビンさんはまだ、値段を決めかねている様子だ。割引とかの観念が無いのでしょうか? でも、仕入れ値と販売価格に差があるからそこらへんがヒントにならないのかな? なんて、私自身はいろいろと考えつくのに……。


「えーっと……仕入れ値で売ると言うのはどうでしょうか?」

「仕入れ値って、オロフさんには何の儲けもないじゃないか」

「だって、仕入れ値を手にすれば、今度はちゃんと売れる布を買えるでしょ? このまま箱に入れてもお金は生まれないよ。ここで売られている布の束が4つは買えるじゃない」

「おお、なるほど!」


 オロフさん親子の様子から、「持ってけドロボー」みたいなことになりそうだった。でも、それでは困るのだ。なにせ、端切れでも商品になるのだから、それでは心が痛む。

 大男、オロフさんが納得したようにがははと笑う。ちょっと、ビリビリと体に響くんですけど?

 でもまぁ、納得してくれて良かった。ロビンさんにも、町で端切れを購入してもらえるように頼んでおいた。もし町で値段がついた状態で売っているのであれば、ここの端切れも定価が決まるだろうと思うのだが……。


 端切れが売り物にならないほど、売れ残るという現実は、私がカバーを作る手段としてパッチワークは最適なのだなぁ、と思わぬ儲け物のアイデアだった。その上、オロフさんも助かるなら一挙両得だ。


「エルナは商売下手だなぁ〜」


 アーベルの一言に反論がないわけではない。商売っ気より、収益を均等に行き渡るらせるほうが、後々大きな利益を生むことがある。私がやりたいのは、そーゆーことなんだよね。

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