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賢者様を待っている世界で  作者: 三條聡
第6章 テグネール村 4
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アランさんとその子供たち

 ミケーレ村長と、レギンたちの妹のエイナちゃんが生きていた。

 これは多分、レギンの家に起こった未曾有の大事件だったのだと思う。そりゃぁ、いい話しなので、どんなに未曾有の事件だっていいのだけどね。


 突然の訪問者はアランさんと言って、連れていた4人の子供の父親だった。

 そのアランさんの話しによると、アランさんの家ではヒツジやウシを飼っていたのだが、奥さんが病にかかって、ヒツジやウシを徐々に手放して薬を買っていたのだが、その甲斐もなく奥さんは亡くなったそうだ。そして更に、気落ちしている家族に追い打ちをかけるように、ヒツジたち家畜が疫病にかかって死に絶えてしまったのだ。

 生活に困ったアランさんは、子供たちを家に置いて、隣町に出稼ぎに出たのだそうだ。


 そんな時、3番目の子供が熱を出したのは、折しもアランさんが家にいない時だった。健気にも、一番上の姉は、まだ空が暗いうちから、解熱作用のある薬草を求めて森に入り、怪我をしてしまったらしい。そんな時に、ミケーレさんに出逢って、助けてもらったそうだ。

 子供が心配だったアランさんは、寝ずに荷馬車を走らせ、家に着いたのは事件が起こった後だった。家にいる見知らぬ男に、死ぬ程驚いたらしいのだが、話しを聞けば子供達を助けてくれた命の恩人だった。


 その命の恩人であるミケーレさんから、アランさんは思わぬ提案をされたと言うのだ。

 それは、子供達ともどもテグネール村へ来て、自分の仕事を手伝ってくれないかと言われたと言うのだ。隣町に出稼ぎに行く間、子供が心配だった上、いまの稼ぎではかなり厳しい生活だったと言うのだ。


 だが、そんな親切な申し出をしてくれる人が、この世界にいるとは思えないと疑ったようなのだが、何故そんな提案をされたのか、少し理解できたらしい。

 ミケーレさんの願いは、自分とエイナちゃんが無事で、何者かに連れ去られたエイナちゃんを追いかけているという事情を、残してきた息子、レギン達に知らせたかったらしい。犯人を追っている間中、常に連絡をしたいと思っていたのだがその手紙を託すことのできる、信頼できる人を見つけることができなかったらしいのだ。

 当然、そんな事情を知らない息子たちは死ぬ程心配しているはずだから、と言われたという。同じ親としてそれは良く理解できたからだそうだ。


 ミケーレさんの提案で、しばらくミケーレさんの家で仕事をして、少しずつでもヒツジやウシを買い戻そうと、一大決心をして、この最北の地、テグネールに来たと言うのだ。


「父さんは、元気でしたか?」

「はい、少し疲れているようには見えました、怪我とかも無いようでしたし」

「よかった……」


 アーベルの目尻には、今も少し涙が残っている。ヨエルは鼻水なのか涙なのか解らない程、ぐちゃぐちゃの顔になった。レギンは、本当に嬉しそうだった。そして、3人に共通しているのは、今すぐにでも、父親と妹を助けに飛び出して行きたそうだったことだ。

 ダーヴィッド村長さんは、少し涙目でヨエルの顔を拭いていた。イーダさんは、嬉しい知らせをもたらしてくれたアランさん親子に、これでもかと言うほど食事を盛っていた。クヌートさんは、どこから持って来たのか、エッバお婆さんと一緒にお酒で乾杯を始めた。


 私は、少し引いた場所からそれらを眺めていた。勿論、レギンたちの父親と妹が生きているのは本当に嬉しかった。でも、私には見も知らずの2人なので、それ以上の感慨はなかったのだ。

 多分、ここではかなり浮いているかもしれない私は、そばにいた「ちっちゃいダニエル」デニスにプリンを食べさせることに専念した。なぜなら、この喜ぶ家族たちを見ていると、自分の家族のことを嫌でも思い出してしまうのだ。


「デニス、おいしい?」


 私の問いに、あーんと口を開けて、次を入れろと無言の催促をしてくる。可愛すぎるぞ、ちっちゃいダニエル!

 でも、デニスもそろそろ眠いのか、目をこすっているし、アランさんの子供達も、お腹がいっぱいになると眠たくなったのか、一番小さい子などは、船を漕いでいるのだ。

 だが困った。今日は、あのお貴族様の料理人やらが泊まっているので、部屋があるか思い浮かべる。残っているのは、お貴族様だとかお役人様用の部屋であった。確か、続き部屋に従者用の部屋もあったはずだ。


「お腹いっぱいになった?」

「はい……ありがとうございます」


 アランさんの一番上の子に声をかけると、とても丁寧な返事に、ちょっと驚いた。食事の様子を見ると、弟妹の世話をしていたのを思い出す。「立派なお姉さんなのだなぁ〜」と、感心するとともに、「長女(長男)は辛いよ」とも思ったよ。


「もう、眠そうだから、ベッドに案内するね」

「あっ……でも……」


 ちょっと心配そうな顔で父親を見るが、父親は皆に質問攻めにっていて、それどころではない様子だった。


「お父さんにも、後で同じ部屋に案内するから、大丈夫だよ」

「……でも……」

「このまま椅子から落ちちゃうよ?」


 妹を見て、お姉ちゃんも諦めたように頷いた。


「私はエルナ」

「私はベアタ、こっちがヨーンで、テディとカミラ」

「よろしくね」

「こちらこそ……お願いします」


 丁寧な言葉は、子供同士で使って来られると、なかなかにわびしい気分になる。もっと子供らしくしてもいいのに……と大人は思うのだろうなぁ。しかいあ、本人は、これが普通だから、そんなこと言われても解らないだろうけど。


「じゃぁ、案内するね」

「はい……カミラ、起きてちょうだい」

「ううぅ〜ん……」

「ほら、ベッドに行きましょう?」


 ぐずるカミラちゃんをベアタちゃんは、重そうに抱き上げた。おお! こんな小さな子が子供を抱くなんて怖い怖い。

 すると、ハッセが助け舟を出してくれた。


「やぁ、俺はハッセ。カミラちゃんを抱っこして、ベッドに連れて行くのを、俺にさせてくれないか?」

「えっ……」

「俺はこれでも妹や弟が4人もいるんだ、だから、いつもベッドにつれて行くのは俺の役目なんだよ」

「はい……」

「ハッセお兄ちゃん、ありがとう」

「どういたしまして」


 満面の笑みで、腰をかがめてそう言うハッセに、世界中の女子は逆らえないのだ。ベアタちゃんも、ちょっと顔を伏せたが、赤くなっているのは、背の低い私には丸見えだ。

 なにせ、ハッセはアドニス・ブロルにそっくりなのだから……。


「じゃあ、二階に運んでくれる?」

「いいぞ……っと、そのチビ助も眠そうだな」


 そう言うと、ハッセお兄ちゃんは軽々ともう一人を左腕で抱き上げた。優男そうなハッセなのに、子供を両腕に抱き上げるとは……。


 私を先頭に、ベアタちゃんとヨーンくんが手を繋ぎながらついて来る。そして、2人を抱いているハッセが続いた。

 階段を上がったすぐの場所にドアがあり、あまり使われていない客室がある。村長であるミケーレさんの家には、領主様の所から派遣された文官など、御偉い人が来るので結構豪華な客室がある。部屋の中にはもう1つドアがあって、その中も客室だ。小さい方は、従者が使うのだそうだ。もう、家の殆んどを占めているのだから、別に迎賓館みたいなものを作ればいいのにと思うよ。何せ、使われないのに掃除をしなければならないのだから。


「このベッドは、大きいから、縦に使ったら4人でも寝れるよね」

「そうだね、エルナは頭がいいなぁ〜」


 ハッセは、二人をベッドに寝かせ、上着や靴下を手際良く脱がせて、布団を掛けてあげていた。う〜ん、なかなか手慣れている。生意気なブロルも、昔はハッセお兄ちゃんに、こんな風に寝かしつけてもらっていたのかと思うと、ちょっと可愛いぞ!


 その間、ベアタちゃんとヨーンくんは、大きな部屋を物珍しそうに、あちこち見回していた。


「ベアタちゃんも寝ちゃうでしょ?」

「はい、私が居ないと、カミラが起きた時に泣くんです」

「そっか……じゃぁ、ロウソクはそこにあるけど、灯はつけておく?」

「いいえ、勿体ないですから」

「じゃぁ、何かあったら言ってね」

「はい、ありがとうございます」


 ハッセと一緒に部屋を出ると、部屋の外にアーベルが待ち構えていた。


「ごめ〜ん、ハッセ兄さん」

「いやいや、エルナちゃんが最初に気がついたから、俺がお手伝いをしただけだよ」

「エルナもごめんね、気がつかなかったよ」

「ううん、大丈夫だよ。それより、ちっちゃいダニエルももう眠そうだったよ」

「ちっちゃいダニエル?」

「あっ……え〜っと……デニス」

「ぷっ」

「あはは、ちっちいダニエルって……」


 ハッセは勿論のこと、アーベルも知らないかもしれないが、オリアンで出逢った御貴族様、バルタサール様を私は心の中で、大きいダニエルと呼んでいたんだよ。


「でも、デニスがちっちゃいダニエルなら、ミケーレ伯父さんは大きいダニエルだよなぁ〜」

「ええ?」

「ああ、そうか、エルナはミケーレ伯父さんに会ったことはなかったんだよね」

「大きいダニエルなの?」

「似てるよなぁ」

「そうだね、ダーヴィド叔父さんが良くそう言っているよね」


 なんと、ちょっとは面白そうな村長さんだと思っていたが、「大きなダニエル」と言われる程ダニエルに似ているのだとしたら、ちょっと考えものかもしれない。

 私は心の中で、ミケーレ村長を「でっかいダニエル」に認定した。


 3人で笑いながら、1階に降りて行くと、何だか騒がしいことになっていた。

 外から入ってすぐの場所や、ドアの外に人が沢山いたのだ。何が起きたのか解らなかったので、3人で駆け寄ると、それは村の人々だった。


「本当なのか?」

「ミケーレ村長は無事なのか?」

「どうなんだ、ダーヴィッド」

「落ち着いて、兄さんは無事だって、俺たちも知ったばかりなんだよ」

「本当か?」

「本人が手紙を寄越したんだ」


 ダーヴィッド村長さんが、手紙をひらひらとさせると、集まった村人は、歓声を上げたのだ。

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