報告
ここで、この章は終了です。
次回は、土曜にアップ予定です。
宿屋の一室で、部下の報告を聞いた。
目的の少女を連れ帰れなかったという報告だった。その報告をしている男は、少し白髪の混じった背ばかりが高い痩せた男だ。その目は、鋭く自分を見据えている。
「で、その娘はどうした」
「置いて来たそうです」
忌々しく響く『ノルドランデル』の名に、少し眉をしかめてみせただけで、計画の失敗に関しては、特に何も感じていない。
「まさか、入れ替わった娘が、あのアレクシスの血の者だったとは、良くもまぁ……」
「まさに、アンティア様のおっしゃっていた通りではないですか」
「そうだな……」
「ヴァレニウス国では、大変な騒ぎになりましょう」
「ふふふ……が、犯人の関係者に、あの男がいるのだから、どうなるのかな」
計画は頓挫した。が、目の前にいる男と自分は、計画はこれからなのだと知っている。今のところ、とても上手くいっているのだから、笑わずにはいられなかった。
「まぁ、引き続き……進めるぞ」
「御意」
カロッサにある宿の一室に、夕陽の最後の赤い光が差し込む。
周囲は、家路に向かう人々が溢れ、喧噪で町は賑わっているのを感じた。
(ノルドランデル……、ここからだぞ)
ニヤリと笑う自分の顔が、暗くなりつつある窓に映っているのが見えた。