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賢者様を待っている世界で  作者: 三條聡
第4章 テグネール村 3
55/179

ヨエルと仕事

 朝だ。

 朝です。

 子供の体のお陰で、疲れは残ってませんよ。でもねぇ〜、精神的なダメージの蓄積は、寝て無くなるわけではないのです。特に、問題が山積していたり、片付けなくてはならない事案が片付ける端から登場するのは。だから、私はスーパー○リオのゲームは嫌いです。


「おはよ〜エルナ」

「おはよう、ヨエル」

「今日は、エルナはどうするの?」

「ヨエルは?」

「僕は、ウシの乳をしぼって、ヒツジの記録をする」

「記録?」

「うちは、みんなに名前をつけて管理しているんだ。いつ生まれて、いつ子供を産んで、いつ毛を刈ったとか……よいしょ!」


 ヨエルはそう言いながら、ベッドから飛び降りて洋服を着る。私も這い出して、ベッドから飛び降りる。ここのモルモットの巣は、ベッドととしてはとても高いのです。最初は、上手く乗れなくて、レギンに抱き上げてもらったくらいだ。でも、その理由はアーベルが教えてくれた。ここは、冬は閉ざされるほど寒い地域なので、あまりベッドが低いと、寒くて凍死をするらしい。嘘か本当かわからないが、冬は二段ベッドの上の方が温かかったのは覚えている。


「その記録はどうしてするの?」

「そろそろ、ヒツジのお腹に赤ん坊がいるのが出てきてるからね」

「おお、そうなんだ!」

「冬の間にどれくらい生まれるのか、ちゃんと調べておかないと、隔離する部屋とか準備できないからさ」

「ヒツジの赤ちゃんは可愛いよね」

「うん、時々死んでしまう子がいるから悲しいよ」

「ああ……だからレギンは獣医さんが居たらって言うのか……」

「……父さんはさ、ヒツジの出産に手を貸すか、それはどんな時なのか良く知ってたんだ。でも、兄ちゃんはまだ解らないって言うんだ。だから、ヒツジの子が死んだって言うけどさ、村のみんなは兄ちゃんのせいじゃないって言うんだ」

「そうか、レギンは責任感の固まりみたいだもんね」

「……せきにんかんって何?」


 ずるっ。

 そこかい!

 私は着替えながら、責任感という言葉について教える。それは、結局、着替え終わって下に降りるまで続いたのだが……。


「おはようございます、エルナ様」

「ええ〜っと、バルロブさん、おはようございます」


 そう、バルロブさんは私たちについて村にやって来たのだ。有言実行と言うか、電光石火というか……。兵士達の前で宣言して、そのまま荷造りをして、帰って来る馬車に乗り込んで来たのだ。それに、バルロブさんが私を師匠認定してから、『エルナ様』は止めてと言っても聞かないのですよ。


「今朝は、どのような食事をお作りしましょうか?」


 準備万端です。私とヨエルも、これでも早起きをしたつもりだったのに……。


「う〜ん……どうしましょう……」


 朝食の献立なんか気分だ。私はいつも直前に決めるのだから、今考え中です。


「あれ、兄ちゃんたちはまだ?」

「はい、まだお休みのようです」

「珍しい!」


 そりゃそうだよ、護符のお陰で早く帰って来ることはできたけど、レギン自体は、護符の加護を得ていないのだ。

 どう言うことかって?

 ディックさんが譲ってくれた護符は、いくつもの種類があった。まず、馬車に『軽量化』の護符、そして、2頭のウマには『疲労回復』『早足』……『早足』は便宜上の名前で、単にウマのスタミナを増大するものだった。だから、帰りの速度は、景色がもの凄い勢いで流れていくという、怖い状態ではあったし、『常夜灯』の護符が練り込まれたランプも借りれたので、視界はとても明るかったが、それでももの凄い勢いの馬車をぎょするのは、目がとても疲れるし、気の張りようは尋常ではなかったと思う。


「もう少し寝かしてあげようよ、レギンが一番疲れていると思うから」

「じゃぁ、兄ちゃんの仕事をやっちゃおう……エルナも手伝ってよ」

「わかった。レギンの仕事って何? あっ、バルロブさんは、ポテトとオニオン、ウォルテゥル、トーマートをさいの目に切ってください。キャベツもそれより大きめの四角に切っておいてください」

「量は、どのくらいでしょう?」

「ポテト3つ、オニオン3つ、ウォルテゥル2つ、キャベツは半分です」

「承知いたしました」


 私とヨエルは、厩に向かった。勿論、ウマとウシを放牧場に放し、厩の掃除を始める。ヨエルは偉そうに、いろいろと教えてくれるのが、可愛くて、和んでしまった。


「シニルは神経質だから、奇麗にしてから寝わらをちゃんと均等に敷かないと、すごく怒るんだ」

「へぇ〜、グニルはそんなことないの?」

「まったく、全然、そんなことない!」


 力一杯に言うヨエル。


「あいつは、寝わらをぐちゃぐちゃにしちゃうし、泥水がはねても全然平気、そのくせ、人が掃除しているのを邪魔して、髪の毛を食べるんだよ!」

「おお、乱暴者なのか」

「アーベルは、グニルはダニエルに似ているって」

「ぶっ」


 ダニエルは、良く例えられるのだが、まさか、ウマにまで……。思わず吹き出した。


「僕、ウシの乳をしぼっちゃうから、エルナはヤギたちを外に出してあげて」

「うん、わかった」


 ヨエルに言われて、部屋になっている囲いからヤギたちを外に出す。大人しいもので、扉を明けると、何もしなくても外に出てくれる。そして、ヤギの部屋の掃除だ。

 もうねぇ、臭いよ。本当に臭い! でも、生き物だからね、私は前にも言ったが、無類の犬好きだ。排泄物の処理とともに過ごしてきたようなものだから、掃除には抵抗はない。でないと、この世界では、生きて行けなかったのだろう。大げさ? どうかな。


「あっ、掃除、終わったの?」

「うん、外に掃き出してまとめておいたよ」

「すげー、エルナ!」

「で、次は?」


 その後は、2人で夜のうちに放牧場の柵が壊れたり、異変がないか見回った。レギンに東側はすぐに《禁忌の森》だから、近づくなと言われたのは私だけではなく、ヨエルもそんなことを言って、遠くから確認するだけだった。


「ヒツジは出さないの?」

「柵を見回ってから出すけど、その前に、記録をしないと……」

「じゃぁ、アーベルを待たないといけないの?」

「あと、兄ちゃんがいないとダメだ」

「じゃぁ、ヒツジたちにはちょっと我慢をしてもらおうか」

「ん……」


 ヨエルと手をつないで、柵を見回った後、そのまま家に戻った。こんな子供に手を引かれるのは、なんだか照れくさいのだが、当の私の肉体は、ヨエルに手を引かれなければ危ないところだった。何せ、放牧地は一面に草がはえていて、足場が柔らかいし、時々登場するウシの排泄物を踏みそうになったり、避けようとしてその排泄物にダイブするところだったのだ。


「エルナ様、野菜は切り終わりました」

「では、オニオンを鍋で炒めてください。透明になる程度でいいです。その後に、ポテトとウォルテゥルを入れて、塩と胡椒を少しふって、炒めてください」

「はい」

「ああ、それと、バルロブさんが欲しい調理器具なんかあったら、後で教えてください」

「調理器具ですか?」

「ここでも、使いやすい道具があった方がいいですよ。『やりにくい』という気持ちは、料理を不味くします」

「ああ、それは何となく解ります」


 バルロブさんは、ニッコリ微笑むと野菜を鍋で炒めはじめた。私は、二品目の料理のために、食糧庫からベーコンと、ヤケイの小屋から卵を4つを手にいれて、バルロブさんの所に戻った。ヨエルは、昨夜遅くに作成した、ディック町長のマットレスの様子を見に行ってもらった。


「エルナ、あれ、1人じゃ無理だよ〜」


 見に行ったと思ったら、ヨエルはすぐに戻って来てた。

 ああ、そうだった。私の使っているマットレスの3倍の厚さのマットレスを作ったのだ。


「乾いていた?」

「う〜ん、なんだか重いんだけど、乾いてなくて重いのか、マットレスが重いのか解んない」

「じゃぁ、後で見てみるから、とりあえずは、アーベルとレギンの様子をこっそり見てきて、もしかしたら熱が出てるとか、具合が悪くて起きれないとかかもしれないし」

「ええ!」

「いや、そんなことは無いと思うけど、もしもだからね、騒いで起こさないようにね!」


 ヨエルは叫んだと思ったら、もう階段を駆け上がっているのだ。最期まで、私の言うこと聞こえたのかな? 本当にお互いを思いやって、家のことをちゃんと切り盛りしているあたり、この兄弟は凄いと思うよ。


 バルロブさんに、ミネストローネ、ベーコンとスクランブルエッグ、そしてバルロブさんが焼いたパンで朝食をとった。いつもより、遅い朝食だったけど、それまではレギンもアーベルもゆっくり寝れたと言うことで、良しとしよう。

 朝食の後は、レギンたちはヒツジたちの様子を記録して、私は、バルロブさんに酵母菌の作り方を教えた。小麦を製粉する時に出る殻を、水を入れて寝かすだけだ。何も注意することはないのだ。

 で、大問題なのは、今日の分の酵母菌の確保だ。実は、熱を出して寝込む前に、ブルーベリーで酵母菌を作り寝かしてあるのだ。3日目になるので、そろそろワインの匂いがしてきているはず。


「これは、ワインですか?」

「ううん、これはブルーベリーで作った酵母菌です」

「なんと!」

「ブドウでも、ストロベリーでも作れるんだよ」

「ほぉ、それはどのように変わるのですか、パンに使うと」

「ブルーベリーの味と匂いがします。でも、小麦の殻で作ったものより、柔らかいパンにならないんです。でも、しっとりとして、ぱさぱさに固いパンよりも食べやすいですよ」

「おお! これは、食する料理によってパンを変えることができますな」

「そうですね、味の濃い料理は普通のパンが合っていると思うけど、魚やヤケイの脂身のない部分を料理するなら、酸味のあるブルーベリーのパンは合いそうですね」

「なるほどなるほど……」

「でも、これは変ね……もう酵母として使えそうな感じ」

「そうなのですか?」

「うん、さっき教えた酵母菌は、1日で使えるようになるけど、日持ちはしない。でも、これは、ときどき砂糖を少し入れたり、ブルーベリーを追加してあげると、いつまでも使えるよ。ただし、夏は涼しい所に、冬は温かい所で保存してくだい」

「よろしければ、陶器の壷を売っている場所をお教え願いますか? 私はここで、いくつか作って持ち帰りたいのですが」

「それじゃぁ、オロフさんの雑貨屋さんに後で行く?」

「はい!」


 番頭役のアーベルをお供に、私とバルロブさんは、荷車を引いて意気揚々と村へと向かった。

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