表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者様を待っている世界で  作者: 三條聡
第3章 オリアンの町 1
36/179

逃亡者 1

 夜は深い闇に包まれる。

 目の前のあるたき火の明かりだけが唯一の明かりだった。これが消えてしまったら、目を開けているのか、閉じているのか解らなくなるだろう。それほどの闇だった。

 ヴァリ様の命に従い、現国王ヴァレニウスの姪をさらってきた。事は驚くほど上手くいったのは、あの方の協力があったからだろう。追っ手がかかるのも遅くなるように細工をしていた。本来なら、国王が自分の姪の誘拐に気がつく頃には、俺たちは国境近くまで迫っていたはずだった。

 しかし、追っ手を混乱させるためにとった道程は、思わぬ時間的ロスを引き起こしてしまった。あの、すーっと真っすぐで射抜くような瞳を持つ村人に会わなければ、このような面倒なことになっていなかった。そして、ギードを失うこともなかったのだ。


「ゲレオン様、そろそろお眠りになられた方が……今晩は、私が見張りに立ちますから」


 部下にそう声をかけられても、自分に眠りが訪れないことは解っていた。が、そう声をかける部下は、心配そうで気を使いすぎている。


「アレはどうしている?」

「馬車で眠りについております。ご心配なく、の方の御前に赴くまでは、静かに眠っているでしょう」

「そうか……」


 幌のある荷台は、静かに暗闇の中にあった。馬も外されて、古くさい木製の幌で覆われているが、中は御者台の方には部屋に区切られているし、木製の外装の内側には金属の板で覆われている。無意識で、首から下がる鍵を握る。


「火の番を任せる、今日は荷台で寝ることにする」

「はっ、お任せください」


 ゆっくりと荷馬車に近づき、後ろの扉を開けて中に入る。その動作は音もさせずに、静かに動く。この体に身にしみた動作だ。

 中にある扉に、鍵を差し込んで開けると、1人の少女が眠っていた。一見すると、安らかに眠っているように見える。が、それはこの少女が横たわっている寝具に魔術がかけられているからだ。この少女は、その魔術を解除をしなければ、まぶたを開けることはない。が、目覚めなくとも良く解るのは、その顔に貴族の特徴が見られることだ。後10年もたてば、聡明で美しい女性になるのは想像にかたくない。そう言えば、屋敷でちらりと見た母親であり、ヴァレニウス王の妹に良く似ている。まぁ、彼女の髪は金色であったが……。


 ふと、胸の奥がざわついた。その理由は自分でも良く解ってるのだ。この少女を見るたびに思い出すのは、幼い少女が追われ、決して足を踏み入れてはいけない場所に駆け出していく後ろ姿を。彼女を護る者は、部下たちを一手に引き受けていた。残念だが、とても追えるものではなかった。その少女を思うと胸が痛み、その後に初めて対面したこの小さな姫君を目にした時、ふいに2人の姿が重なってしまったのだ。

 それ以来、眠っている少女を見るたびに、胸がざわつくのだ。


「すまない……」


 自分の口から言葉が漏れ、そのことに驚きつつも、この計画は、誰も傷つかないはずだったのにと、不運にも出くわしてしまったあの2人の姿を、今夜もきっと見ることになるのだろうと覚悟をする。

 これは、犯した罪への罰なのだ。それは甘んじて受ける覚悟があった。朝になれば、嫌な汗をかいて起きる自分は、救われることがあるのだろうか? いや、それを求めるのは自分の弱さだと切り捨て、少女が寝ている部屋の扉を静かに閉めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ